まずは、EUと米国の対話プロジェクトについて、概説する。
1|対話プロジェクト設定の経緯
EUと米国は、合計で、世界の保険市場の70%以上を監督している。2008年の世界的な金融危機は、よりよい国境を越えた協力を証明し、発生する課題に直面する態勢を整えるべく、規制の現代化が重要であることを再認識させた。それまでも、EUと米国の規制当局は、定期的な対話を通じて、必要に応じて、監督上のアプローチを調和させ、異なる管轄区域の規制当局間の信頼と相互理解を促進してきた。
こうした中で、EUと米国の対話プロジェクトが、消費者保護、ビジネス機会、効果的な監督のための理解と協力を強化する目的で、EUと米国における保険監督制度の主要な側面の全体的な設計、機能、目的についての洞察を深め、両制度の重要な特徴を特定するために、これまで行われてきたEUと米国の対話の上に構築され、2012年1月に開始された。そこでは、EIOPA(欧州保険年金監督局)、EC(欧州委員会)、NAIC(全米保険監督官会議)、米国財務省のFIO(連邦保険局)が、この対話プロジェクトに参加することで合意した。
2|これまでの検討状況
対話プロジェクトは、EUと米国のトップ監督官僚各3名ずつの6名で構成される運営委員会(Steering Committee)によって率いられている。 運営委員会は、契約者と金融安定性を保護する健全な規制制度にとって根本的に重要であると考える、以下の7つのトピックを選択した。
1.プロフェッショナルな秘密と機密性
2.グループの監督
3.ソルベンシーと資本要件
4.再保険及び担保要件
5.監督報告、データ収集と分析と開示
6.監督上のピアレビュー
7.独立した第三者審査および監督上の現場検査
7つのトピックのそれぞれに対処するために、両管轄地域の保険専門家からなる別々の専門委員会(Technical Committees)が設置された。各専門委員会は、2つの体制の間の整合と相違の領域を特定する、客観的で事実に基づく報告書を準備することを任された。欧州におけるソルベンシーII実施のために開発中のルールを含むソルベンシーII指令の3つの柱のアプローチと、米国の保険財務ソルベンシー枠組みにおける州ベースのシステムで、特定された7つのコアな主要物が、7つの報告書のそれぞれの基礎を提供した。
これらに基づいて、2012年12月に「EUと米国における保険監督と規制制度の一定の側面を比較したEUと米国の.対話プロジェクト専門委員会報告」が公表された。
この報告書に基づいて、運営委員会は、2017年までの5年間に行われるべき共通の目標とイニシアティブを概説する「Way Forward」計画に合意した。2014年4月、対話プロジェクトの運営委員会が5カ年計画に統合されるべきさらなる措置について議論するために開催された。2014年7月、プロジェクトへの進捗状況を概説し、プロジェクトへのコミットメントを再確認したWay Forwardの更新がリリースされた。
3|カバード・アグリーメントを巡る動き
2015年11月に、米国の財務省とUSTRは、EUとのカバード・アグリーメントの交渉を開始する、と公表した。2016年2月にブリュッセルで、第1回目の協議が行われて、「保険と再保険に関する2者間合意に向けてのEUと米国の交渉に関する共同声明」が公表され、「両者は、効率的かつ迅速に行動することに合意し、グループ監督、監督当局間の機密情報の交換及び担保を含む再保険監督に関係する事項についての合意を誠実に追求することを確認した。」とされた。
その後、EUと米国の代表者の間で、2016年7月と12月(19日、20日)にブリュッセルで、2016年5月と9月及び12月(6日~8日)にワシントンDCでと、これまでに6回の協議が行われている。
3―カバード・アグリーメントとは