なぜ韓国では最低賃金を守らない企業が多いのか?―韓国の最低賃金の未満率は11.5%で日本の約6倍―

2016年12月20日

(金 明中) 社会保障全般・財源

1――はじめに

韓国政府は、労働者の生活を安定させることや働く意欲を高める目的で、1988年1月1日(1986年12月21日に最低賃金法を制定)に最低賃金制度を施行し、現在に至るまで約30年間にわたり、最低賃金制度を実施している。しかしながら、まだ最低賃金を守っていない企業が多く、最低賃金未満の時給で働いている労働者の割合(以下、未満率)は2015年時点で11.5%に達している1

最低賃金の適用を受ける使用者は、国が定めた最低賃金額以上の賃金を労働者に支払わなければならず、それに違反した場合は罰金等のペナルティを課せられるものの、韓国ではまだ最低賃金を守らない企業が多い。なぜこのような現象が起きているだろうか?本稿では未満率を中心に韓国における最低賃金の現状について論じたい。
 
1 日本が1959年4月15日から最低賃金制度を施行していることと比べると、韓国における最低賃金はかなり遅れて導入された。
 

2――最低賃金や未満率の現状

2――最低賃金や未満率の現状

日本が地域別に異なる最低賃金が適用されていることに比べて、韓国では全国的に統一された一つの最低賃金が適用されている。韓国では雇用労働部長官が毎年3月31日までに、政労使の委員で構成されている最低賃金委員会に最低賃金の審議を依頼し、最低賃金委員会は依頼日から90日以内に審議を行い、最低賃金案を雇用労働部長官に提出すると、雇用労働部長官は8月5日までに新しく適用される最低賃金を決定・告示する2。最低賃金委員会で決まった最低賃金は次の年の1月1日から12月31日まで適用される。

2016年8月に告示された2017年の最低賃金は時給6,470ウォンで今年の6,030ウォンに比べて7.3%も引き上げられた。これは1988年に最低賃金が施行されてから29回連続の引き上げであり、この期間の平均引上げ率は9.5%に至る。日本の最近(2000年から2015年まで)の最低賃金の平均引上げ率1.3%と比較すると、韓国の最低賃金の引き上げ率の高さが分かる。
最低賃金の引き上げ率が高いことなどを原因として、韓国では最低賃金を守っていない企業が多く、最低賃金未満の時給で働いている労働者の割合は2002年の4.9%から継続的に上昇傾向にあり、2015年には11.5%に達している。これは2015年の日本の未満率1.9%の約6倍に該当する数値である。
 
2 雇用労働部長官は、最低賃金委員会が提出した最低賃金案により最低賃金を決めることが難しいと判断した場合は20日以内にその理由を挙げ、委員会に再審議を要請することができる。

生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中(きむ みょんじゅん)

研究領域:社会保障制度

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴

プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
       東アジア経済経営学会理事
・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)

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