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不動産市場・不動産市況
オフィス賃料は反発も、インバウンド需要のピークアウトが-商業施設、ホテルに影響 不動産クォータリー・レビュー2016年第3四半期
基礎研REPORT(冊子版) 2016年12月号
2016年12月07日
(増宮 守)
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アベノミクスの開始以降、全般的に回復が続いてきた不動産市場にも、最近では様々に変調が表れている。特に、インバウンド需要のピークアウトによる商業施設およびホテル市場への影響は小さくない。
1――経済動向と住宅市場
国内経済は、実質GDP成長率が3四半期連続の前期比プラスを保つなど、緩やかな成長を続けている。ただし、第3四半期は外需に依存した経済成長となり、総じて内需は冴えなかった。
今後も、世界経済の減速から外需に期待しづらくなるものの、雇用所得環境の改善を受けた底堅い個人消費により、プラスの経済成長が続くとみられている。
住宅市場は概ね堅調で、新設住宅着工戸数が前年同月比プラスで推移している。とりわけ、根強い相続税の節税ニーズに加え、金融機関の融資姿勢の積極化や建築コストの落ち着きが貸家着工を加速させている[図表1]。
首都圏の新築分譲マンション販売戸数も9月には10ヶ月ぶりに前年同月比でプラスとなった[図表2]。神奈川県での伸びが大きく、消費増税前の駆け込み需要を想定していた大規模駅近物件などが順調に販売された模様。
マンション価格も上昇を続けており、9月の首都圏中古マンション平均価格(東日本不動産流通機構)は前年同月比+5.7%の3,126万円となり、リピートセールス法による不動研住宅価格指数の上昇も続いている。
2――地価動向
地価動向は、年次ベースの基準地価では(7/1時点)回復が続いた一方、四半期ベースでは、首都圏住宅地の地価上昇が収束しつつある。野村不動産アーバンネットによると、首都圏住宅地の地価は第3四半期(10/1時点)に前期比+0.1%のほぼ横ばい[図表3]、地区別では、都区部(+0.5%)で上昇が続いたものの、埼玉県(+0.1%)、神奈川県(±0.0%)、千葉県(±0.0%)で横ばい、東京都下(▲0.1%)でマイナスとなった。
3――不動産サブセクターの動向
1│オフィス
東京の賃貸オフィス市場では、住友不動産六本木グランドタワー(貸室面積、約3.1万坪)の稼働率約6割での竣工などにより、Aクラスビル市場の空室率がやや悪化した。賃料は反発したものの、2015年第3四半期にピークアウトした後の自律反発とみられる[図表4]。
集約移転需要が中心となっているAクラスビル市場では、2018年以降の大量供給を見据えるテナントも多く、空室率の上昇に先んじて賃料が弱含んでいる。
2│賃貸マンション
東京の賃貸マンション市場では、賃料上昇が鈍化しているものの、まだ下落の兆候はみられていない[図表5]。マンションの用途別でみると、近年出遅れていたシングルタイプの賃料上昇が加速している。
一方、東京の高級賃貸マンション市場では、賃料の大幅な変動と共に空室率が下げ止まり、サイクルのピーク感が漂っている[図表6]。高級賃貸マンションに入居する英米人が多い港区では、直近2016年7月の外国人人口が前年同月比+1.6%に止まり、東京都全体の+8.2%を大きく下回っている。
3│商業施設・ホテル・物流施設
商業施設およびホテル市場を牽引してきたインバウンド需要がピークアウトしている。ただし、訪日客の人数自体は、依然として前年同月比約2割増しのペースで増加している[図表7]。
訪日外客数の増加の一方、訪日客の日本国内での1人当たり消費額は、第3四半期に前年同期比-17.1%と大きく落ち込んだ[図表8]。政府主導で贅沢品の消費を抑えている中国人(前年同月比-18.9%)だけでなく、多くの国の訪日客が消費額を縮小している。
インバウンド消費需要が減退する中、商業動態統計による9月の小売業販売額(税込み季節調整済み指数)は、前年同月比-1.9%となった。特に、百貨店の9月の既存店売上は前年同月比-5.0%で7ヶ月連続のマイナス、とりわけ外国人向け免税品売上は-10.1%で6ヶ月連続のマイナスとなった。
店舗売上の頭打ちを受け、高級品店の多い銀座を筆頭に、商業施設賃料もピークアウトしている[図表9]。
ホテル市場でも、8月には国内宿泊施設の延べ宿泊者数が外国人分まで前年同月比マイナスに落ち込んだ[図表10]。訪日客の宿泊需要拡大がホテル市場を牽引する状況は収束しつつある。
ホテル稼働率が前年同月比でマイナスとなる月が増えており、STRグローバルによる全国のホテルのRevPARも8月は前年同月比-1.7%であった。
賃貸物流施設市場では、首都圏に続き、大阪圏でも大量供給が本格化している。CBREによる大型マルチテナント型物流施設の空室率は、第3四半期に首都圏で9.1%(第2四半期8.9%)、近畿圏で6.9%(同1.9%)に上昇した[図表11]。
新規需要は旺盛なものの、都心から離れた圏央道エリアの空室率は2割超に上昇している。首都圏の大量供給は一旦ピークを過ぎ、当面は需給改善が期待されるものの、2017年第2四半期から再び新規供給の増加が見込まれている。
4――J-REIT(不動産投信)・不動産投資市場
2016年第3四半期の東証REIT指数(配当除き)は、9/20-21の日銀による「金融緩和の総括的な検証」を前に小動きに終始し、6月末比▲1.0%の下落であった[図表12]。結果、9月末時点のJ-REIT全体の分配金利回りは3.5%(対10年国債利回りスプレッド3.6%)、NAV倍率は1.2倍、時価総額は11.7兆円となった。
J-REITによる第3四半期の物件取得額(引渡しベース)は5,263億円で(前年同期比+39%)であった。
不動産投資市場では、J-REITが前年を上回る活発な取得姿勢をみせた一方、その他の投資家による物件取得は大幅に縮小した。不動産価格サイクルのピークアウト
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を視野に取引市場の活力が減退しているといえる。
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増宮 守
「不動産価格サイクルの先行的指標(2016年)~大半の指標がピークアウトを示唆~」
ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2016年10月13日
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