また、同委員会は、過剰生産問題について16年4月に閣僚級の会合を行ったが、日米欧が中国に対して過剰設備の解消策を求めたのに対して、中国の反対で最終合意に到らず、9月に再交渉を行った結果、G20杭州サミットでの議論も踏まえ、G20 とOECD参加国が、グローバル・フォーラムを設立し、引き続き議論することが決まった。
一方、鉄鋼業界は中国製品を主な標的にアンチダンピング(AD)や相殺関税(CVD)の提訴が急増している(図表15)。とくに、米国の増加が顕著となっていることが分かる(図表16)。
米政府は、16年6月に中国製の耐食鋼に対して209%のAD税を課したほか、冷延鋼板にも266%のAD税を課すなどの対策を実施する一方、6月に北京で行われた米中戦略・経済対話では中国鉄鋼の過剰生産問題を取上げた。同対話では、中国が過剰生産能力を削減するほか、非効率な生産を続けるゾンビ企業を淘汰するとしたこれまでの約束を繰り返しただけで、新たな合意はなかったことから、米産業界では米中戦略対話の限界を指摘する声もあり、米鉄鋼業界の政府に対する不信感が強まっていた。
もっとも、米鉄鋼業界が要求していた中国のWTO協約上の「『市場経済国』認定見送り」については、11月23日に米商務省から認定を見送る方針が示され、政府が業界の要求に答える形となった。「市場経済国」の認定問題は、01年に中国がWTOに加盟した際、当初15年間は、「非市場経済国」と認定されるという規定になっており、その規定の期限が今年12月にくることから注目されていた。
AD税の認定に当っては「市場経済国」の輸出製品が対象の場合には、当該国の国内価格と輸出品価格の差がダンピング・マージンと認定されて、それに基づいて決定される。一方、「非市場経済国」の場合には、当該国の国内価格は参考にされず、「代替国の国内価格」と輸出品の価格差がダンピング・マージンと認定される。このため、「非市場経済国」のダンピング・マージンは高くなる傾向がある。
これまで中国に対するAD税は高い水準となっていたが、「市場経済国」に移行することでAD税が縮小することに日米欧の鉄鋼業界は危機感を募らせていたが、今回、米政府が先導し日欧も歩調を合わせることで、中国の「市場経済国」認定の見送りの可能性が高まった。
これらの動きは、今回の大統領選挙でトランプ氏が中国に対する不公正貿易の非難を繰り返してきたことで世間の注目を集める結果となったことから、米政府に中国政府に対してより強硬な姿勢で交渉することの圧力となったことは否定できない。
3 鉄鋼問題に関する多国間の情報交換を促進するために設立された委員会。日本からは経済産業省産業局鉄鋼課が参加。OECD加盟国(24カ国)に加え、EU、インド、南アフリカ、ブルガリア、台湾、エジプト、マレーシア、ロシア、ブラジル、ルーマニア、ウクライナが参加。
4 "Excess Capacity in the Global Steel Industry and the Implications of New Investment Projects"(15年1月)
4――トランプ次期大統領の経済政策とその効果