減価償却費を活用したJ-REITの内部成長率

2016年10月27日

(岩佐 浩人) 不動産市場・不動産市況

減価償却費の活用による内部成長率を試算する
一般に、内部成長率12とは、企業活動において外部資金の調達を行わずに内部投資のみで実現できる成長率のことを言い、以下の計算式で求めることができる。この式によると、配当性向が低く利益の内部留保率が高い、又は株主資本利益率(ROE)が高い企業ほど内部成長率は高くなる。
利益を全額分配するJ-REITは、内部留保率が0%のため内部成長率も当然0%になる。しかし、賃貸不動産の集合体であるJ-REITは費用項目に占める減価償却費の割合が大きい。現金留保した減価償却費を資本的支出や物件取得に活用しポートフォリオに再投資することで内部成長できる余地がある。そこで、以下の前提条件のもと、既存ポートフォリオの不動産収益を維持するCAPEX投資比率と余剰資金による物件取得を想定し、次年度以降の内部成長率を試算した(図表―10)。
試算結果によると、CAPEX投資比率がJ-REIT実績ベース(28%)の場合、内部成長率は1.2%となる。また、エンジニアリングレポートベース(20%)の場合、内部成長率は1.4%に高まる。一方、CAPEX投資比率が100%(資本的支出=減価償却費)まで上昇すると内部成長率は0%に低下してしまう。さらに、減価償却費を上回る資金を投じても不動産収益を維持できなければ内部成長率はマイナスに陥り、分配金は将来先細りしていくことになる。
 
 
12 サスティナブル成長率ともいう
 

4――おわりに

4――おわりに

本稿では、J-REITの減価償却費を活用した内部成長率について試算した。不動産の長期保有を前提に安定した分配金を投資家に還元するJ-REITにとって、経年に伴う収益減少への対応は避けられない課題である。それ故、J-REITが長期保有するに相応しい不動産とは、目先の高い利回りを稼いでくれる物件でもなく新しくて見栄えの良い物件でもない。築年数が経過しても一定の資金を投資することで中長期にわたり収益を維持できる物件、つまりはテナント代替性が高く立地に優れた物件だと言えるのではないだろうか。

上場銘柄数が増加し投資家による選別の視点が厳しくなるなか、J-REIT各社は不動産ポートフォリオの構築方針について、より問われることになりそうだ。

金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人(いわさ ひろと)

研究領域:不動産

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴

【職歴】
 1993年 日本生命保険相互会社入社
 2005年 ニッセイ基礎研究所
 2019年4月より現職

【加入団体等】
 ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
 ・日本証券アナリスト協会検定会員

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