このような内容をもつ「パリ協定」には課題も指摘されているが、その意義をあげると、次の三点となろう。
- 文明史的な大転換点であり、すべての国による世界的な気候変動対策の再出発点
- 2050年を視野に入れた超長期目標による脱炭素経済の実現に向けた世界的な戦略的合意
- 国際的なCO2排出量削減のPDCAサイクルの確立 (各国の削減計画の着実な実施 ⇒国際的な報告・レビュー ⇒全体進捗の評価 ⇒目標の見直)
(3)FSB (金融安定理事会)が設置した「TCFD」
2015年4月のG20財務大臣・中央銀行総裁会議声明は、付属文書でFSB(金融安定理事会)に対して「気候変動問題に対する金融セクターの配慮のあり方」に関するレビューを依頼した。これを受けてFSBでは気候変動と金融安定に関する検討が開始された。
同年9月にFSB議長(イングランド銀行総裁)がロイズ保険組合での講演で、
化石燃料に関連する資産が座礁する可能性(筆者注:詳細は後述する)に言及するとともに、「
気候変動が金融安定に対し明確な課題であると分かった時には、手遅れになる可能性がある」と述べている。また、同年10月のG20への議長レターでは、
気候変動は「金融安定に影響を及ぼし得る新たなリスクの1つ」として取り上げられた。因みに、気候変動リスクは「物理リスク」「賠償責任リスク」「経済移行リスク」の3つに分類されている。
さらに同年12月のCOP21において、元ニューヨーク市長のブルームバーグ氏を座長とする「気候関連財務ディスクロージャー・タスクフォース」(Task Force on Climate-related Financial Disclosure:略称TCFD)の設置が発表された。既に開示基準に関する中間資料も提出されているが、2016年中に検討成果を取りまとめる予定となっている。これにより金融安定と気候変動(リスク)の関係についての議論が世界的に高まることが予想される。
(4)サプライチェーンを対象とする「現代奴隷法」
2015年3月、英国で「現代奴隷法」が成立した。この法律は、企業に対して自社事業とサプライチェーン上の奴隷制を特定し、それを根絶する手順の報告を求めるものである。多くの企業は、奴隷制度は過去の歴史の話と思うかもしれない。しかし、英国では強制労働をはじめ人身売買や性的搾取などが現代型の奴隷制度として認識されていて、"人間の安全保障"とも言われる世界で初めて制定された法律である。なお、同法による現代奴隷の定義は、(1)奴隷・隷属・強制労働、(2)人身売買、(3)搾取(性的搾取、臓器提供の強制など)の3つである。
この現代奴隷法は、
グローバル・サプライチェーンにおける人権侵害の有無やリスクを企業に確認させ、根絶することを目的とする。対象企業に対して、「奴隷と人身売買に関する声明」を毎年1回発行(ウェブ公開)することを求める。英国で事業する企業のなかで、世界での売上高が3,600万ポンド(約45億円)を超える企業が対象となり、英国内外の約12,000社が相当すると言われ、この中には英国法人を持つ多くの日本企業が含まれている。
なお、企業が奴隷と人身売買に関する内容を確認するステップを踏んでいない場合、その旨を声明に書かなければならない。さらに企業が法令を順守しなかった場合には、無制限の罰金が科せられるとしている。
現代奴隷法の要件に該当する企業は、声明に以下の内容を含むことが求められる。
・構造:組織の構造と事業内容およびサプライチェーンの特徴
・方針:奴隷と人身売買に関連する方針(既存の関連する方針も活用)
・デュー・ディリジェンス:自社事業とサプライチェーンにおける人権デュー・ディリジェンス
・リスク評価・管理:事業とサプライチェーンにおける奴隷と人身売買のリスクの有無、リスクに対する評価・管理のステップ
・パフォーマンス指標:奴隷と人身売買が事業とサプライチェーンで起きていないことを確認する方法と有効性、その方法のパフォーマンス評価指標KPIによる測定(モニタリング)
・研修:奴隷と人身売買に関する従業員研修