コラム

データが示す「ニッポンの母の就業の現状」とその問題点-少子化社会・女性活躍データ再考:「働く母」の活躍の道はどのように開かれるのか-

2016年10月17日

(天野 馨南子) 子ども・子育て支援

はじめに

6月2日に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」において「三本の矢」とされる中心となる政策の柱の2本目である「夢をつむぐ子育て支援」。
 
子どもをもつかどうかは全く個人の自由である。そうではあるものの、子をもつことを希望する人々が、安心して夢を叶えることが可能な社会の実現を目指す政策は必要であり、この「夢をつむぐ子育て支援」は、子を持つ夢が叶った結果としての「希望出生率1.8」を達成しようというものである。

「夢をつむぐ子育て支援」の具体的な取り組みの一つに「女性活躍」が掲げられている。

仕事に専念したい女性は言うまでもなく、妊娠・出産・子育てとともに仕事を続けたいとする女性の夢を叶える女性活躍政策は、一個人のミクロの利益と企業利益や国益というマクロの利益をつなぐ、重要な政策となる。

そしてこの女性活躍には、子を持ちたいと願う男女に「次世代育成か仕事か」の二者択一を迫るような社会からの脱却が必要不可欠となっている。
 
「次世代育成か仕事か」二者択一社会からの脱却は、当然ながらこれから結婚を考える男女にとっても「一馬力に頼らない二馬力家庭」への移行や意識改革を促すものであり、結婚に伴う経済的な問題への不安に希望を与え、結婚支援策ともなる重要施策である。
 
本稿では、次世代育成と仕事の二者択一を迫るこれまでの日本の状況のうち、特に女性にかかる部分に焦点をあてる。「子どもを持つ」という選択をした女性が、日本において一体どのような就業、または不就業状況にあるのかを国のデータによって示し、そこから浮かび上がる課題について指摘したい。

そもそもニッポンの母は仕事を有しているのだろうか

日本の2015年における平均第1子出産年齢が30.8歳であるため、子育ての中心世代と推定される30代女性。この労働力率が大きく低下する女性労働力率のM字カーブをいまだ維持し続けている日本。先進国では珍しい労働力率状況をいまだ維持している。

そこでまずは18歳未満の子を持つ女性、「お母さんの仕事の有無」について、国のデータから確認しておきたい。
調査対象となった子どもを持つ女性約1万2千人のうち、仕事を有している女性は68%であった(図表1)。この数値だけからは、「日本のお母さんは7割働いているのか」という感想を一般的には持つかもしれない。

しかしこれを年齢階層別にみてゆくと、データから受ける印象は随分と異なってくる。

母親が20代後半の場合、仕事を有している割合は約5割にまで急落する。平均から16ポイントもの下落である。20代前半以下の年齢ではさらに仕事を有している割合が減少する。
 
つまり、ニッポンの母は7割働いているが、
「母親が20代の場合、約半分の女性が仕事を有していない」状況が浮き彫りになる。
 
総数として約7割の母親が就業しているという状況は、主に子を持つ35歳以降の女性からの状況であることに注意が必要である。このことから、本人の意思であるのか、社会環境であるのかは別として、日本において20代で母親になる、ということは「2人に1人が仕事をもっていない」という状況とセットとなっていることを確認しておきたい。
 
このように若くして母になった女性の方が仕事についていない状況は、残念ながら20代の女性、その夫またはその恋人に

「結婚して子どもができたら(彼女は)仕事をやめなければならないのか」
「ならば結婚はもう少し先延ばしにしてお金をためよう・キャリアを磨こう」
「子どもをもつのはもう少し先にしよう」

などと考えざるをえない状況を生み出しているともいえるであろう。

生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子(あまの かなこ)

研究領域:暮らし

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴

プロフィール
1995年:日本生命保険相互会社 入社
1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向


【委員歴/ご依頼順(現職優先)】

1.政府
・【総務省統計局】
「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
・【こども家庭庁】
「若い世代の描くライフデザインや出会いを考えるワーキンググループ」構成員(2024~2025年度)
「令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員」(2023年度)
・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】
「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
・【内閣府男女共同参画局】
「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
・【内閣府】
「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~2018年)
「地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)

2.自治体
・【富山県】
「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
「富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員」(2022年)
・【高知県】
「元気な未来創造戦略推進委員会 委員」(2024年度~)
「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年度)
・【三重県】
「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年度~)
・【愛知県豊田市】
「豊田市総合計画推進会議 有識者委員」(2025年度~)
・【石川県】
「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
・【長野県伊那市】
「伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般」(2020年~2021年)
・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】
「子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー」(2021年)
・【愛媛県松山市】
「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会・結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)

3.民間団体
・【東京商工会議所】
東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
・【愛媛県法人会連合会】
えひめ結婚支援センターアドバイザー委員(2016年度~)
・【公益財団法人東北活性化研究センター】
「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)
・【中外製薬株式会社】
「ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会(通称:研究倫理委員会) 委員」(2020年~)
・【主宰研究会】
地方女性活性化研究会(2020年~)


日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
日本労務学会 会員
日本性差医学・医療学会 会員
日本保険学会 会員
性差医療情報ネットワーク 会員
JADPメンタル心理カウンセラー
JADP上級心理カウンセラー

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