UFRについては、本来的にはその水準だけでなく、補外についての各種要素についての検討が行われ、総合的に妥当と判断される手法等に基づいて、超長期の割引率を示すリスクフリー曲線の全体が決定されていくべきものである。特に、如何にして、できる限り市場金利を活用しつつ、市場金利から人為的に設定されるUFRに基づく金利に滑らかに接続していくのか、が重要になってくる。さらには、UFRの導入にあたっては、いくつかの課題もあり、こうした点を含めて、検討が行われていくべきものである。これについては、基礎研レター「
超長期の金利水準はどのように決定されていくべきなのか―UFR(終局フォワードレート)について―」(2015.7.13)で述べているので、ここでは触れない。
ところが、現実の世界においては、UFRの水準のみに焦点が当たっているのが実情である。特に、現在のような超低金利環境下においては、UFRの水準が有する意味合いが極めて高くなっていることから、これは止むを得ないとも思われるが、本来的にはどうあるべきかの議論がしっかりと行われていくことが望まれる。
その意味では、DNB等が主張するように、UFRの水準だけでなく、UFR制度全体の持つ課題について整合的に見直しを検討していくことが望まれることになる。ただし、これを行うのであれば、現在のUFR水準の維持を主張するサイドが提案しているように、より時間をかけて、他の制度との整合性等も考慮する中で、検討が行われていくべきということにもなってくる。こうした観点からは、UFR水準の見直しのみが中心的な項目となっている今回のCPの提案に対して、異論があるのも理解できることになる。
ただし、現在のUFRの水準を巡る状況は、ユーロに対する4.2%という水準が一人歩きして、何らの見直しを行わない場合には、ソルベンシーII制度の信頼性にも影響を与えかねないものとなっているとの見方もできる。特に、UFRを導入(ないしは導入を検討)している他の制度において、ユーロに対するUFR水準を4.2%を下回る水準に設定してきているという点も、一定考慮しなければならない状況に置かれているものと考えられる。
こうした中で、今回のEUのソルベンシーIIにおけるUFRの見直しを巡る状況と今後の展望について、考えてみたい。
1|今回のUFR水準の見直し案に対してはスタンスの違いが存在し、調整が必要な状況
これまで述べてきたように、今回のUFR水準の見直し案に関しては、現行のUFR水準の維持を主張するサイドからは、現段階での見直しは時期尚早であるとの思いが強く、一方で、現行のUFR水準の見直し(引き下げ)を強く主張するサイドからは、引き下げの水準やスピードが十分ではないとの思いがあり、双方にとって、必ずしも十分に満足のいく提案とはなっていない。
EIOPAの観点からは、今回の提案は、こうした双方のスタンスを考慮しつつ、現実的で中立的な解決策を提案したとの思いかもしれない。ただし、今回のコメントにみられるように、これに対しても、現行のUFR水準の維持を主張する立場からの強い反対意見が提出されており、何らかの調整が必要な状況になっている。
2|EIOPA内の各国の監督当局間でもスタンスの違いが存在-PRAのスタンスが注目-
監督当局の間でも、オランダのDNBがUFRの見直しに積極的であるのに対して、ドイツの監督当局であるBaFinは慎重なスタンスをとっている、というように、必ずしもスタンスが統一されているわけではない。
こうした中で、英国の監督当局であるPRA(健全性規制機構)の動向が注目されている。PRAはDNBと同様に、規制に関して厳しいスタンスであると思われるが、英国のEU離脱(Brexit)の投票を受けて、今回のEUにおけるUFRの見直しに対して、どのようなアプローチで臨んでくるのかが関心を呼ぶことになると思われる。
これまでとは異なり、一定の距離を置いて、ロープロファイルなスタンスで臨むのか、それとも今後のPRA独自の監督規制のあり方を見据える中で、自らのスタンスを強く主張していくのかが注目されるところである。そのスタンスが今後のEIOPAの議論の結果にも大きな影響を与えることになるかもしれない。