EUソルベンシーIIの動向-EIOPAがUFR(終局フォワードレート)の見直しに関するコンサルテーション・ペーパーを公表-

2016年04月25日

(中村 亮一) 保険計理

2|今回のUFRの見直し提案の概要
今回のコンサルテーション・ペーパーに基づくと、以下の通りとなる。

(1)UFRの水準設定の考え方 
UFRの水準を、1)期待インフレ率と、2)期待実質金利、との合計とする考え方は変更していない。
「1)期待インフレ率」については、中央銀行のインフレ目標に基づき、1%、2%、3%、4%の4つのバケットに区分している。
「2)期待実質金利」については、全ての通貨に単一の実質金利を使用している。公表されたAMECO4及びOECD(経済協力開発機構)のデータを使用して得られる過去のデータの幾何的重み付けによる加重平均に基づいている。期間プレミアムを排除するために短期実質金利を使用している。
なお、UFRの変更は、毎年20bpsを超えることはできない。さらに、実質金利の要素の変化が5bps以下の場合には変更されない。

(2)UFRの水準 
見直し後のUFRの水準は、以下の通りとなる。
例えば、ユーロについては、上記の「2)期待実質金利」が現行の2.2%から1.7%に引き下げられたため、UFRの水準は現行の4.2%から3.7%に引き下げられている。
このように、これまでの、3分類から、4分類になり、基本的には先進国は4.2%から3.7%のように50bps引き下げられているが、BRICsは5.2%から5,7%に50bps引き上げられている。さらに、韓国等には4.7%の水準が与えられている。
注目すべきは、日本のUFRが、現在はスイスと同じ最低水準の3.2%となっていたものが、日本銀行のインフレ目標が2%であることが反映されて、3.7%に引き上げられている。

(3)UFR水準見直しの初期導入の方法
新しいUFRの方式については、2017年からの導入を予定しているが、この場合に、UFR水準の変更(引き下げ)の仕方について、3つの選択肢が提案されている。
第1の選択肢は、2016年のUFRは現在の水準とすることを前提として、2017年以降は新たな方式に基づいて算出するが、当初の5年間の変更を10bpsに制限する。この場合、2017年 4.1%、2018年 4.0%、2019年 3.9%、2020年 3.8%、2021年 3.7% の水準を適用することになる。
第2の選択肢は、2016年のUFRは現在の水準とすることを前提として、毎年の変更幅を20bpsに制限する。この場合、2017年 4%、2018年 3.8%、2019年 3.7% の水準を適用することになる。
第3の選択肢は、段階的導入をせずに、2017年から3.7%の率を適用する。
このうち、UFR水準の変更による一時的な責任準備金積立負担の影響の大きさから、第3の選択肢は適切ではない、と考えられている。また、第1の選択肢についても、継続ベースでの毎年の変更幅である20bpsよりも低い変更幅制限である10bpsを制度改正時に適用する必要性はない、と考えられている。従って、第2の選択肢が志向されている。

(4)今後のスケジュール
コンサルテーション期間は7月18日までとなっている。EIOPAは、関係者からのフィードバックを踏まえて、9月に見直しの結果を決定する予定である。なお、現在のUFRの水準については、2016年末まで、変更されることはない、としている。
このように、IAISとEIOPAの間においても、UFRの水準は通貨毎にもかなり異なっていることがわかる。IAISのUFRでは7つのバケットに分かれているが、スイス・フランもユーロと同じ水準に設定されている、BRICsも2つのグループに分かれており、さらに、中国元、香港ドル、台湾ドルは、EIOPAとは異なり、同一水準に設定されている。
 
4 AMECO(Annual macro-economic database)は、DG ECFIN(the European Commission's Directorate General for Economic and Financial Affairs:欧州委員会経済・金融総局)の年刊マクロ経済データベースである。
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