4|民間医療保険における健全性確保の仕組み
今後、日本においても、民間医療保険のより一層の活用を図っていくことが望まれるが、その場合には、従来の定額給付だけではなく、実損填補での給付方式による商品をより一層普及させていくことが重要になってくるものと思われる。
この際、ドイツの民間医療保険のように、実損填補の医療費用保険を終身等の長期間保障で提供していくことが求められてくることも考えられる。ただし、この場合には、将来の保険事故発生率等の不確実性に備えた仕組みの構築が極めて重要になってくる。
現在の枠組みの中で、各種の将来収支分析やストレステストの充実を図り、対応していくことも考えられるが、仮に、ドイツの民間医療保険における仕組みを参考にすれば、具体的には以下の案を検討していくことも考えられる。
(1)保険料調整権の付与
まずは、民間医療保険会社に対する保険料調整権の付与は必須であると考えられる。現在の定額給付方式の民間医療保険においても、基礎率変更権の付与が認められているが、その適用条件等はかなり厳しいものとなっている。実損填補方式で、公的医療保険制度の代替的性格を有する医療費用保険においては、将来の不確実性はさらに高いことから、将来の保険料調整の可能性は高く、その適用のための要件緩和も必要になってくるものと思われる。
この場合には、ドイツの法令で規定されているような「毎年の保険料調整の必要性を検討するルール」等も明確にして、必要な場合には確実に保険料調整が実施できる仕組みとしておくことが重要になってくるものと考えられる。
(2)保険料への外枠での一定率の上乗せ等による将来の保険料調整財源の明示的確保
「将来の保険料の調整(引き上げ)に備えるために、現在の保険料に10%の割増を行い、その部分は、老齢化積立金(責任準備金)への積立を強制する」とのドイツ独自の仕組みは、日本においても一定程度参考になるものと思われる。あくまでも、明示的に契約者群団の持分として管理し、通常の老齢化積立金とは区分して管理されるものであり、最終的な契約者群団への帰属も法令等で明確にしていくこと等の対応が必要になってくる。
ただし、日本で導入する場合には、一定率の上乗せ方式の妥当性の検証等、適切な制度設計を合理的な考え方に基づいて行っていく必要があり、契約者への説明等の観点からも、問題のない方式や水準等に設定していく必要がある。
こうした制度の導入の検討は、保険会社の健全性の確保という観点からだけではなく、将来の高齢者の保険料調整をできる限り回避して、契約者への適正な保障を確実に提供していくという観点からも重要な意味を有している。
(3)毎年の剰余の準備金への留保
医療保険事業からの毎年の剰余については、その一定割合は、将来の保険料調整に備えるための財源として、ドイツにおけるRfBと呼ばれる準備金のような、特別の準備金に留保する仕組みの導入が適当と考えられる。この部分については、いわゆる将来の損失に備えるための準備金として、資本として見なすことができるものであるが、一方でその使用目的を原則保険料調整財源という形で限定することで、保険負債の一部を構成する形としていくこと等が考えられる。
(4)巨額医療費用支払リスクのためのプールの設定
慢性疾患等については、高額の治療費用が長期にわたってかかる場合もある。こうした慢性疾患等に対する一生涯の保障を民間医療保険会社が提供していくためには、これらの保障提供によって、経営の健全性や安定性が損なわれることがないように、民間医療保険会社全体で保障を行う「リスクプール」を構成すること等も検討課題になってくるものと考えられる。ただし、あくまでも、一部の高度のリスクに限定していくことが望まれる。
ドイツは、民間医療保険へのこうした独自の仕組みを導入しつつ、生命保険と同様の将来収支分析やストレステストも実施して、健全性を確認する制度となっている。日本の民間医療保険会社において、実損填補型商品を長期間保障で提供していく場合には、健全性を確保しつつ、顧客ニーズにもより柔軟な形で対応した商品を提供できるように、このような新たな仕組みを導入することも、今後検討していく必要があるものと考えられる。
なお、併せて、民間医療保険会社に商品開発を促していくためには、現行あるいは3|(4)の方策等によって得られる各種のデータベースの民間利用をより一層拡大させていくことが必要になってくるものと思われる。
5―まとめ