各国監督当局の承認スケジュールを巡る問題は時間の経過とともに解決してきたが、一方で内部モデルの承認に関しての各国の監督当局間でのアプローチの不整合問題は引き続き存在している。これは特に、複数の国で活躍する大手の保険グループ間での公平性の問題に関わってくる。
EIOPAは各国監督当局間の不整合をできる限り回避し、調和を図るために、内部モデルの承認に関するさらなるガイダンス等をリリースしてきた。ただし、ここで示されてきたEIOPAの意見に拘束力はなく、あくまでも各国監督当局が内部モデルの承認に関して裁量を有する形になっている。今後、EIOPAは、各国監督当局がどのような行動を採ったのかについてフォローアップを行い、さらなる手段が必要か否かを検討すると表明しているが、本当に整合性が取れた形で収束を図ることができるのかについては依然不透明な状況にある模様である。
1|ソルベンシーIIと同等と評価された第三国における子会社の評価
グループ・ソルベンシー評価に関して、例えば、米国には同等性評価が認められ、米国子会社に対するソルベンシーIIの適用は免除され、米国基準がそのまま適用できることになったが、次に、こうした米国基準の数値をグループ・ソルベンシー比率の算出にどう反映するのかが問題となってくる。
米国の会社行動水準のRBC比率の何%がソルベンシーⅡ比率の100%に相当するのかを示す「転換率(conversion ratio)」について、大手各社間でも、Allianzが150%、AXAが300%、Prudential が250%、Aegonが250%と異なっている
12。このように、各社が異なる転換率等を使用していることによって、必ずしも公平な競争条件が確保されているとはいえない、状況になっている。
この問題に関して、EIOPAは9月に「同等性に関連してのグループ・ソルベンシー算出についての意見」
13を公表しているが、この中で「グループ・ソルベンシー・ポジションを算出する上では第3国の最も高い資本要件の水準を適用する。」ことを推奨し、附属文書に実務的な例示を挙げている。
2|ソブリン債のリスク評価
ソブリン債については、標準的方式においては、リスク・フリーとして取り扱われている。これに対して、EIOPAは、内部モデルを使用する場合は、ソブリン債についてもリスク・ウェイト付けすべきだと推奨している。これを受けて、ドイツや英国やフランスの監督当局は内部モデル適用会社に同様の方針で臨んでいる。一方で、イタリアやスペインの監督当局はより緩い方針で臨んでいるようである。
こうした動きに対して、EIOPAは、保険会社が特定のソブリン債に過度に集中するリスクを抑制するために、標準的方式においても、ソブリン債に対してリスク・ウェイト付けして資本チャージを課す方向で検討する意向を示している。欧州危機は、国債が必ずしも完全なリスク・フリーとはいえないことを示したが、南欧諸国からのプレッシャーもあり、保険会社の自国の通貨で発行されたソブリン債については0%の資本チャージが認められる形になっている。
欧州システミックリスク理事会(European Systemic Risk Board:ESRB)は、3月10日付けのレポート「ESRB report on the regulatory treatment of sovereign exposures」の中で、もしソブリン債に対して社債と同様の資本チャージが課されたら、前提にもよるが、最大800億ユーロの追加資本が必要になる、と報告している。さらに、半分以上の国ではSCRの増加は20%未満にとどまるが、3つの国でSCRが150%以上増加することになるだろう、と報告している。