日銀短観(9月調査)を深堀り~金融市場の動き(10月号)

2015年10月02日

(上野 剛志) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

【要旨】

  1. (短観) 昨日の短観において最も意外だったのは、大企業の強気の設備投資計画だ。本日発表の「調査全容」で業種別の状況を確認すると、不動産、電気・ガス、運輸・郵便、自動車、はん用・生産用・生産用機械、電気機械が強気計画を支えており、これら6業種の寄与度は全体の大半を占めている。このうち製造3業種の動向は要注意だ。新興国経済の減速などから、それぞれ生産がここ数ヵ月減少基調にあるためだ。今後、さらに生産が下振れるようだと、投資計画に先送りや凍結の動きが出やすくなる。人手不足に関しては、全業種で人手不足感が出ているが、特に強いのは、宿泊・飲食サービス、対個人サービス、運輸・郵便といったサービス業と建設だ。サービス・建設需要が堅調な中で機械化が難しいためと考えられる。特に、インバウンドの追い風を強くうける宿泊・飲食サービスの人手不足感は突出している。
  2. 本日発表された「企業の物価見通し」によると、物価見通しは1年後、3年後、5年後の全てで前回から低下した。足元の景気停滞感や内外経済の先行き不透明感を反映したものと考えられるが、企業のインフレ期待には後退傾向がみられる。日銀が重視する「物価の基調」の構成要素であるだけに、日銀にとって警戒すべき材料が一つ増えた形に。
  3. (日銀金融政策) 日銀は9月の決定会合で金融政策を維持した。輸出・生産の鈍化を織り込みつつも、総裁会見では強気を維持。追加緩和の手掛かりは特に発せられず。
  4. (市場の動きと予想) 9月はやや円高ドル安、ユーロドルはほぼ横ばい。長期金利は若干低下した。尾を引く中国不安と盛り上がりに欠ける米利上げ観測により、当面は動きにくい。為替は経済指標を睨みながら、ドル高方向への小幅な水準調整が入る程度か。

経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志(うえの つよし)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴

・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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