いつの時代でも「今どきの若者は・・・」というフレーズを耳にする。大抵、このあとに続くのは、それぞれの時代の若者の特徴に対する否定的な論調だ。
2012年現在、今どきの若者と言えば、団塊世代やバブル世代が若者だった頃に好まれていたクルマやブランド品、海外旅行といった比較的高額な商品・サービスからの消費離れで世間を賑わせている。そして、その背景は雇用情勢の悪化による購買力の低下や価値観の変化などによって説明されている。
先日、拙稿
1 では若者が現在の経済状況にどれくらい余裕を感じているかを分析した。正規雇用か非正規雇用かを軸に二極化傾向があり、余裕を感じているのは正規雇用の共働き夫婦、正規雇用の独身男性、夫が正規雇用で高収入の専業主婦など世帯収入に余裕のある層であり、余裕のなさを感じているのは非正規雇用者のうち特に独身男性のほか、正規雇用でも年収がさほど多くない既婚男性であった。また、かつては優雅な独身層として揶揄されていたパラサイト・シングルも現在では随分事情が変わっており、非正規雇用で経済的な不安があるために結婚に至らない未婚男性が親と同居している様子が窺えた。
中高年の常識では同世代における二極化は不憫なことであり、経済的に余裕がなければ欲しいモノも買えずに日々の生活にも不満が多いに違いないなどと捉えがちだ。若者の消費を牽引する鍵も、経済的に余裕のあるセグメントをどう取り込むかだ、などと結論づけるのかもしれない。しかし、今どきの若者については、そう単純な話ではないようだ。
内閣府の調査によると、20~30歳代の7割は現在の生活に満足している。これは40~60歳代よりも高い値である。また、レジャー・余暇生活など生活各面をみても、それぞれで高い満足度を示している(図1)。さらに幸福感をみても、20~30歳代は40歳代以上より高くなっている
2。つまり、経済的な余裕は二極化し、非正規雇用も多くを占める
3今どきの若者だが、大半は現在の消費生活に満足しており、幸福感も高いのである。
現代社会では安価で良質なモノがあふれており、若者が欲しいモノは必ずしも高額とは限らない。経済的に余裕がなくても欲しいモノを手に入れることもできるため、低所得でもそれなりに充実した消費生活を送ることができる。このような図式が先の調査結果につながるのかもしれない。よって、経済的に余裕のあるセグメントだけが消費を牽引するという単純な話にはならない。
それでは若者の消費牽引の鍵は何だろうか。
ここで若者の思考を紐解くキーワードとして「パラダイス鎖国」
4をあげたい。これは、国内のそれなりの市場規模に満足し、諸外国との競争に目を向けずに世界市場から取り残される現象を指すのだが、安価で良質なモノがあふれ生活も便利な我が国で、低所得でもそれなりの消費生活を送って満足している若者の様子と似ていないだろうか。また、両者には長期的視点がないという共通点もある。
では、今の楽しみに重きを置き、パラダイスに住む若者たちの消費を牽引する鍵は何だろうか。
モノが充実した社会では、もしかしたらそれはモノ以外の何かなのかもしれない。携帯電話やパソコン、ソーシャル・メディアが浸透する世の中では、まず、コミュニケーションという切り口があがるのだろうが、ここでは敢えて別の切り口を取りあげたい。
内閣府「社会意識に関する世論調査」によると、20歳代の社会貢献意識は増加傾向にある(図2)。男性は直近でやや減少しているが、1980年代では3割に過ぎなかったことを鑑みると、大きく増加している。なお、2011年の調査実施は東日本大震災前の1月であり、次回は上昇に転じると予想される。
震災直後、売り上げがチャリティに充てられるような商品を多く目にした。某サッカー選手の著書は印税が復興支援に充てられるとのことで、女性を中心に一層売上を伸ばしたという話も聞く。特定商品の購入が何らかの社会問題の解決につながると訴えることで、企業の利益獲得と社会貢献を同時に実現する取り組みをコーズ・マーケティングという。案外満たされた消費生活を送り、社会貢献意識も高い今どきの若者には、何らかの理由づけを与えた商品・サービスが消費牽引の鍵になるのではないだろうか。若者が長期的展望を持たないパラダイスに住んでいるのは、明るい将来を見通しにくいことにもよる。若者の将来に対して何らかの布石となるような施策とモノの組み合わせが効果的だ。