コラム

老年者控除の復活はあるのか?

2011年10月05日

(中嶋 邦夫) 公的年金

9月30日に厚生労働省が公表した来年度税制改正要望には、「高齢者の生活の安定を図る見地から、老年者控除の復活をはじめ、年金受給者の税負担のあり方について検討を行う。」ことが盛り込まれた。

老年者控除は、65歳以上で合計所得が1000万円以下の者に対して50万円の所得控除が認められる制度で、2005年に廃止された。また同年には公的年金等控除の縮小も行われている。老年者控除や公的年金等控除などの高齢者世帯に対する税制優遇は、古くから議論の対象となってきた。2004年の年金制度改正をめぐる議論では、若年者との不均衡という従来からの論点に、優遇の見直しによる税収を基礎年金の国庫負担割合の引き上げに充てるという論点が加わり、2005年の老年者控除廃止等を後押しした形になった。

その後、老年者控除の復活や公的年金等控除の再拡大をマニフェストに盛り込んだ民主党が政権の座についたが、これまでのところ具体的な議論はなかった。また、今年6月にまとめられた「社会保障・税一体改革成案」には、社会保障財源の重点化・効率化の一案として公的年金等控除の縮減が盛り込まれており、マニフェストの中身が見直されつつある印象を受けていた。その中で今回の要望が出され、筆者は大変驚いた。

民主党がマニフェストに老年者控除の復活や公的年金等控除の再拡大を盛り込んだ背景には、子ども手当の財源捻出のための配偶者控除の見直しが、子ども手当と無関係な高齢者世帯にも影響することへの代償という位置づけもあった。今回の要望にも配偶者控除の見直しが含まれているため老年者控除の復活も併記されたのだろうが、「一体改革成案との整合性はどうなっているのか?」という印象を受けてしまう。

高齢者や年金受給をめぐる税制には、70歳以上には配偶者控除が上乗せされることや遺族年金は非課税であること、働きながら年金を受け取った場合に給与所得控除と公的年金等控除の両方を受けられるという優遇もある。今後の議論の場は政府や与党の税制調査会になろうが、今回の要望や他の優遇点がどのように議論されていくのか、また低所得者への加算やマクロ経済スライドの見直しなどの一体改革成案とどう整合性が取られていくのか、今後の議論を注目したい。

保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫(なかしま くにお)

研究領域:年金

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴

【職歴】
 1995年 日本生命保険相互会社入社
 2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
 2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
(2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

【社外委員等】
 ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
 ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
 ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
 ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
 ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

【加入団体等】
 ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
 ・博士(経済学)

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