コラム

基礎年金が大幅に下落 ~ H21財政検証結果を読む

2009年02月24日

(中嶋 邦夫) 公的年金

2月23日、平成21年の厚生年金と国民年金の財政検証結果が公表された。

財政検証とは、少なくとも5年に1度公表される公的年金の財政見通しのことである。将来の年金財政の収支バランスのほか、2004年改正で導入された給付削減の仕組みがどのように適用されるかを示すことになっている。給付削減で公的年金財政は健全化されるが、過剰な給付削減を避けるため、2004年改正では給付水準の下限が設けられた。財政検証には、将来の給付水準が次の財政検証までに「モデル世帯の所得代替率=50%」という下限を下回るかどうかをチェックする役目がある。

公表された標準的な見通しによれば、厚生年金に加入する専業主婦(夫)世帯を仮定したモデル世帯の所得代替率は、2009年の62.3%から、2038年には50.1%に下落する見込みとなっている。2割近く減少するが、下限である50%はわずかに上回るかたちだ。これを受けた報道では、「かろうじて50%」「前提が甘い」「数字合わせ」といった内容がみられたが、筆者は全く別のところに驚きを覚えた。それが、基礎年金の大幅下落である。

今回の財政検証では、2009年のモデル世帯の所得代替率62.3%のうち、基礎年金部分(夫と妻の2人分)は36.6%だが、2038年にはこれが26.8%にまで下落する見通しとなっている。これは、基礎年金の水準が、実質的に現在の4分の3程度(26.8%÷36.6%=0.732)に低下することを意味する。自営業者や厚生年金に入れない正規・非正規労働者など国民年金の加入者は、将来、基礎年金のみを受給することになるが、見通しによれば、もともと低い年金額がさらに目減りすることになる。この結果、老後のために自ら貯蓄する額を積み増す必要が出てくるが、十分に貯蓄できない人がでてくれば、生活保護の受給者が増える可能性もある。

このように、モデル世帯など厚生年金と国民年金(基礎年金)とで給付の削減度合いが異なるのは、今回の推計で、将来の労働力率(働く割合)が増加する前提を置いているためだと思われる。この前提が妥当かどうかは疑問が残るが、いずれにせよ、現在の仕組みでは厚生年金と国民年金(基礎年金)の給付削減がアンバランスな状況になりうることが、今回の財政検証で明らかになった。

基礎年金にマクロ経済スライドを適用して給付削減することの是非については、2004年改正の頃から議論になっていた。昨年の社会保障国民会議の試算でも、基礎年金を削減しないために必要な財源が推計されており、その額は2025年で5兆円、2050年で11兆円となっている。今回の財政検証をうけて、基礎年金の意義や、基礎年金にマクロ経済スライドを適用するかどうか、適用停止に必要な財源をどうやって賄うのか、あるいは国庫負担割合を2分の1以上に引き上げるかなど、基礎年金をめぐる議論が再び活発化することを期待したい。

保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫(なかしま くにお)

研究領域:年金

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴

【職歴】
 1995年 日本生命保険相互会社入社
 2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
 2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
(2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

【社外委員等】
 ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
 ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
 ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
 ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
 ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

【加入団体等】
 ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
 ・博士(経済学)

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