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1ドル155円を突破、ぶり返す円安の行方~マーケット・カルテ12月号

2025年11月19日

(上野 剛志) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

月初、1ドル154円台前半でスタートしたドル円は、中旬から円安方向に傾き、155円の節目を約9か月ぶりに突破した。足元も155円台前半で推移している。この間、米政府機関の閉鎖解除やFRB高官の利下げに慎重な発言を受けてドル高圧力がやや高まったうえ、高市政権による諮問委員会を巡る人事や補正予算の積み増しに向けた動きを受けて日本の財政懸念が高まり、円売りに繋がった。また、政府要人の発言等を受けて、日銀の早期利上げ観測が後退したことも円の下押し圧力になった。一方で、政府による為替介入への警戒感が燻ったことは円の一定の下支えに寄与した。

今後も年内は円の下値を探る展開が続く可能性が高い。補正予算の審議や来年度予算案の策定、税制改正大綱のとりまとめなど、財政・税制を巡るイベントが続き、財政懸念が高まりやすいと考えられるためだ。また、財政論議が佳境を迎えるなか、日銀が政権との摩擦を避けて12月の利上げを見合わせることも円安要因となるだろう。政府が為替介入に向けた牽制姿勢を強めることで160円突破は辛うじて回避される展開をメインシナリオとしているが、不透明感は残る。

一方、来年1月に入ると、円安がやや是正されると見ている。財政懸念はくすぶり続けるものの、来春闘に向けた賃上げ気運の継続を確認した日銀が同月に利上げに踏み切ると見込まれるためだ。また、米国の雇用減速感が明らかになることに伴って、FRBによる段階的な利下げ観測もドル安(円高)に寄与するだろう。3か月後の水準は現状より若干円高の154円台と見込んでいる。

月初1.6%台後半でスタートした長期金利は、足元では1.7%台半ばへと上昇している。高市政権の財政を巡る姿勢や動向を受けて、財政に対する警戒感ならびに国債の増発観測が高まったことが主因だ。

今後も財政拡張懸念が燻るうえ、年明け後は日銀による利上げ観測が高まることが金利上昇圧力になるだろう。3か月後の水準は、現状よりもやや高い1.8%程度と見込んでいる。
 
(執筆時点:2025/11/19)

経済研究部   主席エコノミスト

上野 剛志(うえの つよし)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴

・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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