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次回の利上げは一体いつか?~日銀金融政策を巡る材料点検

2025年11月07日

(上野 剛志) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

2.日銀金融政策(10月)

(日銀)現状維持
日銀は10月29日~30日に開催した金融政策決定会合(MPM)において、政策金利の据え置きを決定した。これまで同様、無担保コールレート(オーバーナイト物)を0.5%程度で推移するように促すこととした。据え置きは6会合連続となる。なお、今回も前回9月MPMと同様、2名の委員が0.75%への利上げを主張し、据え置きに反対票を投じた。高田委員は「物価が上がらないノルムが転換し、物価安定目標の実現が概ね達成された」として、田村委員は「物価上振れリスクが膨らんでいる中、中立金利にもう少し近づけるため」として、それぞれ利上げを主張した。

MPM終了直後に公表された展望レポートでは、政策委員の大勢見通し(中央値)において、2025年度の実質GDP成長率、2026年度の消費者物価上昇率(除く生鮮食品・エネルギー)が小幅に上方修正されたものの(下図参照)、前回7月分と大差はなく、見通し期間後半にかけて物価上昇率が2%に収斂していく姿が維持された。レポートの内容では、今後の成長ペースの表現が、前回の「鈍化する」から「伸び悩む」へとやや上方修正され、内訳として、輸出・生産に「グローバルなAI関連需要が上押しに作用する」、名目賃金に「最低賃金の引き上げもあって」との表記がそれぞれ加わった。

また、経済のリスク要因として、「AI関連については、グローバルな需要動向次第で、資産価格の変動なども伴って、世界経済の押し上げ・押し下げ双方の要因となりうる」との表記が加わり、金融面での留意が必要なリスクに「株価」が加わった(前回は不動産のみ)。
 
MPM後の総裁会見において、植田総裁は経済・物価見通しについて、「中心的な見通しが実現する確度は少しずつ高まってきている」と前向きに評価した。それでも利上げを見送った理由については、「海外経済、特に米国経済発、あるいは世界の通商政策動向を巡る不確実性は、(中略)依然として継続している。そういう中で当面注目しているのが、(中略)来年の春闘に向けての労使の交渉姿勢がどのようなものになるかというところであり、この辺りを含めてもう少しデータをみたい」と説明。利上げの是非やタイミングについては「現時点で予断を持っていない」と言質を与えなかった。

物価に関しては、「中心的な見通しに沿って推移しており、現状はビハインド・ザ・カーブに陥る懸念が高まっているとは認識していない」との認識を示した。

米国経済については、「今後、消費者への関税の転嫁が更に進むというふうに考えているので、消費と景気へのマイナスの影響がこれまで以上に大きくなるリスクはある」と警戒姿勢を維持したものの、「下方リスクは、7 月にみていた頃と比べ、やや低下した」と付け加えた。

来年の春闘を巡る動きについて、総裁は、「春闘全体をみなくてはというふうに考えているわけではなくて、初動のモメンタムを確認したい」、「25 年度収益の予想はどうなるかというようなところも大事な材料になってくる」と説明。さらに、賃上げの規模感・地域間のばらつきについて、「大変大事な点」で「常に注意をしてみているところ」とその重要性を強調し、一番の情報源として四半期に一度の支店長会議を挙げた。
 
12月の予算編成中の政策変更は難しいのではないかとの質問に対しては、「場合によっては変更するということは十分可能」と回答した。

また、高市首相が利上げに反対した場合の対応を問われた場面では、「(海外経済・賃金設定行動という点について)私どもの納得がいけば、それは政治状況にかかわらず、金利を調整するということになる」との考えを示した。
一方、足元で進んでいる円安の影響については、「為替変動のもとになった要因も含めて、経済・物価への影響を精査していきたい」との発言に留めた。

食料品価格上昇の影響については、特に家計の短期のインフレ期待に対する強い影響を認めた一方で、中長期のインフレ期待については、「食料インフレに連れてものすごい上がっているという状況ではない」との見解を示した。

展望レポートで付け加えられたAIを巡るリスクに関しては、「設備投資というような支出面でも、資産価格という面でも、おそらく今の勢いを支えている根本的な理由は、今後この分野で強い生産性上昇の波、あるいはもう少し平たく言えば、収益が上昇するという期待感」としたうえで、「仮にこの期待感がその通りには実現しないというようなことが明らかになってくるということであれば、ある程度の調整はあり得る」との認識を示した。

中期的な課題である中立金利に関しては、「幅を持ってしか中立金利ないしターミナル金利を特定できないという状態は残念ながら続いており、(中略)その幅を今のところまだこれまで以上に狭くするということができていない」と説明した。
(今後の予想)
次回の利上げは来年1月と予想。詳細はトピック部(上記3~5ページ)に記載。

3.金融市場(10月)の振り返りと予測表

3.金融市場(10月)の振り返りと予測表

(10年国債利回り)
10月の動き(→) 月初1.6%台半ばでスタートし、月末も1.6%台半ばに。
月初、自民党の新総裁に高市早苗氏が選出されたことを受けて財政拡張観測が高まり上昇基調に。高市氏選出に伴う円安進行が日銀の早期利上げ観測を刺激したこともあり、10日には一時1.7%に到達した。その後は公明党の与党離脱を受けて早期利上げ観測が後退、米地銀の信用不安の高まりも相まって、17日には1.6%台前半に低下した。下旬には政策委員の発言や観測報道を巡って日銀の早期利上げ観測が交錯し、1.6%台半ば付近での推移が継続。月末には日銀が利上げを見送ったものの、大方の直前の見立て通りであったため反応は限られ、1.6%台半ばで終了した。
(ドル円レート)
10月の動き(↗) 月初148円台前半でスタートし、月末は154円近辺に。
月初、米政府閉鎖開始を受けてドルが弱含んでスタートした後、自民党新総裁に財政拡張や金融緩和を志向すると目される高市早苗氏が選出されたことで円安が急速に進み、10日には153円に到達した。その後は公明党の連立離脱によって高市氏が首相に選出されない可能性が意識されたほか、米中貿易摩擦の再燃や米地銀の信用不安に伴うリスク回避的な円買いなどもあって17日には一時149円台まで円高へ。一方、下旬には高市氏が首相に選出されたほか、米中貿易摩擦の緩和期待が台頭し、27日には153円に回帰した。月終盤にはベッセント米財務長官による日本政府に対する利上げ容認要求ととれる発言が円の支えになったものの、日米金融政策決定会合を経て、FRBの早期利下げ観測と日銀の早期利上げ観測がともに後退し、月末は154円近辺まで円安が進行した。
(ユーロドルレート)
10月の動き(↘) 月初1.17ドル台前半でスタートし、月末は1.15ドル台半ばに。
月初、米政府閉鎖を受けてユーロがやや強含んだ後、仏首相による辞表提出を受けて同国政治の混乱が懸念されてユーロが下落し、8日に1.16ドル台前半に。さらに14日には1.15ドル台半ばまで下落した。その後は仏首相が年金改革を凍結する方針を示して政治不安が後退し、17日には1.16ドル台後半を回復した。下旬には米中貿易摩擦の緩和期待などからドルが底堅さを見せ、ユーロの重石に。さらにFOMCを経てFRBの早期利下げ観測が後退してドル高圧力が強まり、月末は1.15ドル台半ばで終了した。

経済研究部   主席エコノミスト

上野 剛志(うえの つよし)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴

・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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