NEW

貸出・マネタリー統計(25年9月)~銀行貸出の伸びが4年半ぶりの4%台に、定期預金等はバブル期以来の高い伸びを記録

2025年10月14日

(上野 剛志) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

1.貸出動向:都銀の伸びが急伸し、13カ月ぶりに地銀を上回る

(貸出残高)                                                                  
10月10日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、9月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比4.17%と前月(同3.82%)から上昇した(図表1)。銀行貸出は5カ月連続で伸び率を高めており、9月の伸び率は2021年4月(4.26%)以来、4年半ぶりに4%台に乗せている。

業態別では、都銀等の伸びが前年比4.35%(前月は3.67%)と大きく上昇し、13カ月ぶりに地銀の伸び(後述)を上回った。都銀の伸びはもともと大口貸出の実行・返済によって振れやすい傾向があるが、大手企業によるM&Aに絡む大口融資が押し上げたとみられる。また、地銀(第2地銀を含む)の伸びも前年比4.02%(前月は3.94%)と着実に上昇している(図表2)。

銀行貸出全体としては、各種コスト増に伴う運転資金需要、M&A・不動産向けの資金需要などが追い風となり、速いペースでの増加基調が続いている。
(貸出金利)
8月の新規短期貸出金利は0.855%と前月(0.983%)から低下し、3カ月ぶりの低下となった(図表5)。ただし、当統計は月々の振れが大きいため移動平均で均してトレンドを見ると、7月以降、再び上昇に転じている。新規短期貸出金利と無担保コールレートのスプレッドはマイナス金利解除前よりもやや縮小した状態にあるため、今後も貸出金利の引き上げ圧力が続く可能性がある。
 
8月の新規長期貸出金利は1.378%と前月(1.492%)から低下し、短期同様、3か月ぶりの低下となった(図表6)。ただし、変動を均した移動平均で見ると、緩やかな金利上昇トレンドが維持されている。固定金利貸出において、主な基準となる10年国債などの利回りが上昇基調にあることが貸出金利の押し上げ圧力になっていると考えられる。8月以降も、10年国債利回りの上昇が続いていることから、新規長期貸出金利への波及が注目される。

2.マネタリーベース:減少ペースが加速

10月2日に発表された9月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通する紙幣・貨幣)を示すマネタリーベース(平残)の伸び率は前年比▲6.2%と前月(同▲4.1%)からマイナス幅が拡大した。前年割れは13カ月連続で、マイナス幅は拡大基調となっている(図表7)。

マイナス幅拡大の主因は、従来同様、マネタリーベースの約8割を占める日銀当座預金のマイナス幅拡大(前月▲4.5%→当月▲7.1%)である。金融政策正常化の一環として、日銀が昨年8月から資金供給要因である長期国債買入れの減額を開始して減額幅を徐々に拡大していることが、引き続き、日銀当座預金の伸び率押し下げに働いている(図表8)。ただし、9月は国庫短期証券の償還が少なかったことや貸出増加支援資金供給の回収が大きく増えたことも日銀当座預金を大きく押し下げた。

また、日銀券発行高の伸び率が前年比▲2.1%(前月も▲2.1%)、貨幣流通高の伸び率が前年比▲1.4%(前月も▲1.4%)とそれぞれ前年割れが続いていることも、マネタリーベースの重石となっている。
なお、季節性を除外した季節調整済み系列(平残)で見ると、9月のマネタリーベースは前月比14.2兆円減と大幅な減少となっている(図表9)。

日銀は6月の金融政策決定会合において長期国債買入れの減額を再来年3月にかけて継続することを決定した(図表10)。今後も資金供給要因である長期国債買入れの減額が緩やかに進められることで、マネタリーベースはじわじわと減少幅を広げていくと見込まれる。

3.マネーストック:定期預金等の伸び率がバブル期以来の高水準を記録

10月14日に発表された9月分のマネーストック統計によると、金融部門から市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比1.55%(前月は1.31%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同0.98%(前月は0.79%)と、ともに5カ月連続で伸び率が高まった(図表11)。伸び率の水準はともに2024年5月以来の高水準にあたる。貸出の伸び率上昇や貿易赤字の縮小傾向がマネーストック伸び率上昇の背景にあるとみられる。
 
M3の内訳では、最大の項目である預金通貨(普通預金など・前月▲0.6%→当月▲0.7%)の伸びがマイナス幅を拡大し、全体の伸び率を抑制した(図表12)。

一方で、主に定期預金を意味する準通貨の伸びは前年比5.2%(前月は同4.4%)と順調にプラス幅を拡大し、M3全体の伸び率を押し上げている。5.2%という準通貨の伸び率はバブル期であった1991年4月以来の高さにあたる(2004年3月以前はマネーサプライベースで一部定義が異なる)。判明している8月までの内訳では、一般法人(企業)が前年比17.8%(前月は16.0%)と2割近い伸びを記録しているほか(図表13)、個人の伸びも前年比0.5%(前月は▲0.1%)と2014年4月以来のプラスに浮上した。今年の春以降、銀行の預金金利は横ばい圏で推移しているが(図表14)、インフレ率が高止まりするなかで、インフレによる価値の目減りを軽減すべく、普通預金からより金利の高い定期預金へと資金をシフトする動きが広がっていると見られる。

なお、現金通貨(前月▲1.6%→当月▲1.6%)のマイナス幅は前月から横ばいであった。
広義流動性(M3に投信や外債といったリスク性資産等を加算した概念)の伸び率も前年比2.13%(前月は1.96%)と上昇した(図表11)。

内訳では、既述の通り、M3の伸びが上昇したほか、規模の大きい金銭の信託(前月3.8%→当月3.9%)や投資信託(私募やREITなどを含み企業保有分も合わせた元本ベース、前月7.2%→当月8.4%)、外債(前月2.9%→当月3.5%)の伸びが拡大し、全体の伸びをけん引した。一方、国債(前月22.5%→当月17.9%)の伸びは、依然として高水準ながら、このところ低下基調にある。

経済研究部   主席エコノミスト

上野 剛志(うえの つよし)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴

・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

レポートについてお問い合わせ
(取材・講演依頼)