遠のいた日経平均4万円回復

2025年05月07日

(井出 真吾) 株式

米国株は24年11月の米大統領選後も順調に上昇を続けてきたが、25年2月下旬から下落基調に転じた。4月7日時点でS&P500は直近の高値から17.6%下落、NASDAQ指数は22.3%下落した(図表1)。当然この影響は日本にも及び、年明け以降に一時4万円を回復していた日経平均は22.3%の下落に見舞われ3万2,000円を下回った。
 
米国株は2段階で下落した。まず2月下旬の下落は米国でインフレ懸念が再燃したことに加え、景況感や個人消費などの米経済指標に弱い内容が散見されるようになったことが背景だ。市場ではインフレと景気停滞が同時進行するスタグフレーション懸念が高まり、米ハイテク株バブルの崩壊に繋がった。
 
一度は持ち直したかのように見えた米国株だったが、米トランプ政権による相互関税への警戒感が高まると再び下落に転じた。極めつけは4月2日に発表された相互関税の内容が大方の予想よりも非常に厳しい内容だったことだ。これを受けて株式市場は世界的な景気後退を本気で心配せざるを得なくなった。
 
日経平均の年内4万円回復はあるか考えてみよう。今後を見通すうえで重要な日本企業の業績動向を確認すると、日経平均採用225社の純利益合計は24年度11.6%増、25年度7.6%増で、ファンダメンタルズ的には好調持続が想定されている(図表2、市場予想ベース)。
 
ただ、これは米トランプ政権が相互関税を発表した4月2日よりも前の予想だ。24年度はともかく、25年度業績は関税の影響を受ける可能性が高い。もっとも一連のトランプ関税が漁夫の利的に日本のGDPにプラスに働くといった試算もあるが、仮に米国が景気後退に陥れば輸出企業を中心に業績への悪影響は大きいだろう。
 
現時点では業績への影響が不透明なので、25年度業績に10%増益から10%減益の幅を持たせて日経平均の居所を探ってみよう(図表3)。仮に25年度業績が24年度から横ばいの場合でも、4万円を超えるには予想PER(株価収益率)が16倍程度まで上昇する必要がある。
 
日経平均の予想PERは経験上16倍程度が上限で、今年2月に株価が下落に転じる前も16倍以上だった日は少ない。今後、トランプ関税が緩和されたり米国景気が堅調さを保ったりするなど、市場心理が大きく改善するような事象が起きれば話は別だが、少なくとも現時点では日経平均の年内4万円回復は遠のいたと考えざるを得ないようだ。
 
一方、25年度10%減益の場合はどうか。2桁減益なら市場心理が冷え込み、PERは14倍程度まで低下しうる。この場合の株価は3万2,000円割れで25年4月7日終値の3万1,136円に近い水準だ。もちろんトランプ政権や主要国経済の動向次第でさらに下落する可能性もある。いずれにしても4万円回復が遠のいたことは間違いない。
 

金融研究部   主席研究員 チーフ株式ストラテジスト

井出 真吾(いで しんご)

研究領域:医療・介護・ヘルスケア

研究・専門分野
株式市場・株式投資・マクロ経済・資産形成

経歴

【職歴】
 1993年 日本生命保険相互会社入社
 1999年 (株)ニッセイ基礎研究所へ
 2023年より現職

【加入団体等】
  ・日本証券アナリスト協会認定アナリスト

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