ドイツの民間医療保険及び民間医療保険会社の状況(1)-2023年結果-

2025年03月03日

(中村 亮一) 保険計理

3―民間医療保険の普及状況(2)-収入保険料及び給付額-

この章では、民間医療保険の普及状況のうちの収入保険料及び給付額の状況について報告する。
1|収入保険料
収入保険料は48,659百万ユーロ、うち代替医療保険が36,794百万ユーロ(完全医療保険が30,995百万ユーロ、介護保険が5,745百万ユーロ)、付加医療保険が10,977百万ユーロとなっている。このように、代替医療保険からの保険料が全体の約3/4を占めている。

また、この民間医療保険の収入保険料水準は、公的医療保険の収入保険料の2割弱に相当している。
収入保険料の増加率については、2022年の3.9%に比べて、0.7%ポイント低下して、3.2%となった。
商品別の状況を見てみると、介護保険や介護付加保険が他の商品に比べて、相対的に高い増加率を示している。

なお、医療保険会社全体の収入保険料48,659百万ユーロは、生命保険・損害保険を含めた保険会社全体の収入保険料226,041百万ユーロの約2割に相当しているが、医療保険に対するニーズの高まりを反映して、過去30年間で、この比率は徐々に増加してきている。因みに、2021年は20.0%、2022年は21.1%だった。
2|給付額
総給付額(老齢化積立金(生命保険の責任準備金に相当)への繰入額や保険料返還を含む)の推移は、以下の図表の通りとなっている。以前は、老齢化積立金への繰入額の増加率が相対的に高かったが、ここ数年間は、高齢化の影響等もあり、老齢化積立金への繰入額の伸びは低くなってきている。なお、将来の保険料軽減等に使用されるための準備金であるRfB(Rückstellung für Beitragsrückerstattung)への繰入額は42億ユーロとなっている。
保険種類別では、医療費用保険(完全医療保険等)が全体の9割近くを占めているが、近年は介護保険の給付額の増加率が高くなっている。
介護保険以外の医療保険の給付タイプ別のシェアでは、通院給付が5割弱で最も高く、入院給付が3割弱で続き、歯科治療給付は15.6%を占めている。
直近で判明している2022年ベースの医療保険の給付額(老齢化積立金繰入を含む)50,547百万ユーロは、生命保険・損害保険を含めた保険会社全体の給付額の27.7%に相当している。
(参考)医療保険普及率の国際比較
ドイツの民間医療保険の普及率を、一人当たりの保険料及び対GDP保険料比率で見てみると、以下の図表の通りとなっており、保険密度を示す一人当たりの保険料は571ユーロ、普及率を示す対GDP保険料比率は1.17%となっている。

なお、これをEU(欧州連合)の加盟国間で比較してみると、欧州保険業界団体のInsurance Europeの最新公表数値である2020年ベースでは、(1)一人当たりの保険料は516ユーロで、オランダの3,111ユーロ、スイスの1,249ユーロ、ルクセンブルグの790ユーロに次いでおり、(2)対GDP保険料比率は1.27%で、オランダの6.80%、スイスの1.64%、スロベニアの1.42%、フランスの1.30%に次いでいた。

医療保険の普及率等は、公的医療保険制度との役割分担が大きく影響しており、民間医療保険に大きく依存しているオランダやスイスが高いものとなっているが、ドイツもこれらに次ぐ国となっている。

4―まとめ

4―まとめ

以上、ドイツにおける民間医療保険の普及状況について、基本的には2023年数値に基づいて報告してきた。

ドイツの民間医療保険は、公的医療保険制度の代替をその主たる機能としつつ、高まる医療保障ニーズに対応する観点から、補完及び補足的な機能を充実させることで、着実に保険料を増加させ、その位置付けを高めてきている。

次回のレポートでは、民間医療保険会社の市場シェア、経営効率及び財務面の状況について報告する。
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