コラム

営業職員考~営業職員の成果の源は?~

2024年10月08日

(大畑 貴彦) 消費者行動

1――営業職員の成績は何によって決まる?

日本生命在籍時に支社長として赴任して数カ月経ったある日の話である。

日本生命では営業職員の新人を採用すると、担当者不在の退社者扱契約(他営業職員が募集した契約で、その取扱職員が退社している契約)を地域単位で新人に割り当て、定期的な既契約訪問活動を通じて、請求手続きの案内などの顧客対応業務を学ばせながら次の契約につなげていく、という育成方式を基本としている。ところが、当時、新人を採用した営業所に割り当てできる契約が多くなく、支社管内の営業所間で割当数の調整をする必要があった。そこで営業職員毎に担当顧客数がわかるリストを取り寄せ、割り当てられた担当顧客数が偏っていないか確認することにした。そのリストでは、営業職員毎の担当顧客数が、自分が契約を取扱った顧客(以下、自己取扱顧客)と退社職員が取扱った顧客(以下、退社者扱顧客)に区別して記載されていたが、営業職員の資格と担当顧客数を個々に見ていったとき、あることに気がついた。

それは、営業職員の資格(日本生命では主として年間の資格選考期間内の契約件数により決定)が、自己取扱顧客数にリンクしていることであった。具体的にいうと、5年以上勤続する職員でみた場合、毎月5件挙績する職員の自己取扱顧客数は300名以上、毎月4件挙績する職員は250名前後、毎月3件挙績する職員は200名前後、毎月2件挙績する職員は150名前後となっており、100名を下回る職員はほぼいなかった。その後、会社全体のデータを取り寄せて検証してみたが、同様の傾向であり、自支社だけの傾向ではないことがわかった。高成績の営業職員は、自己取扱顧客数が多いだろう、と感覚的にはわかってはいたが、それが客観的な数値で確認できたことは自分としては大きな発見だった。退社者扱契約の存在、職域や中小企業など様々な活動基盤、紹介といった多数の加入経路があるなかで、これまで明確に意識していなかったが、当たり前と言えば当たり前のことである。
 
そもそも、契約をいただいた顧客の多くは、営業職員の有力なサポーターでもある。既に営業職員とは人間関係ができているため、提案もちゃんと聞いてくれるし、家庭に結婚・出産などのライフステージに変化があったときは先方から声をかけてくれたり、さらには友人や知人を紹介してくれたりもするなど、大変有難い存在なのである。そして当然のことながら、つきあいが長ければ長いほど、言い換えれば勤続年数が長ければ長いほど、サポーターとの関係はより強固なものとなり、仕事面で大きなプラス効果を生むことになる。
 
一方、外資系生保の営業職採用では、既に一定数の顧客をもっていることが条件であり、そのため前職が別業界の営業職出身者であることが多いが、その顧客は(他業界の他商品の)自己取扱顧客であり、商品は異なるが国内生保の営業職員と同じ基盤にたっていることになる。また、保険代理店の取扱実績も基本的には保有顧客に比例しているわけで、こう考えていくと、生命保険会社の営業職員とは、規模(保有顧客数)に差がある代理店主であり、営業所はその代理店主の集合体といえるだろう。
 
もちろん、成績と自己取扱顧客数の関係式は、商品構成・成績計上・業務運営などによって変化するため、この関係式をただちに適用できないと思うが、少なくとも、自己取扱顧客数に比例して成績がアップするという関係は同じと思われる。また、件数、保険金額、保険料など、成績のベースとしている項目は生命保険会社によっても異なるが、いずれにしても顧客数と成績には強い相関があるのではないだろうか。

2――この関係式を前提にして思うこと

営業所の機関長時代に、営業職員の資格を上げようと努力したが、これがなかなかうまくいかない。たまに昇格できてもすぐ元に戻ってしまう。職員本人のやる気の問題か、機関長である自分の力量の問題と思っていたが、前述の考え方にたつと、成績の背景にある「顧客数」が昇格するには不足していたから、つまり、資格アップできる環境が整っていなかったからと考えられる。職域や法人など、白地の顧客が多数いる基盤があれば、新規の契約も可能だが、そうでなければ、サポーターである自己取扱顧客に頼らざるをえなくなるため、その顧客基盤が一定とすれば成果量には初めから限界があったということであろう。言い方を変えれば、自己取扱顧客の拡大に時間をかけて地道に増やしていくことが昇格のベースなのであって、1人の機関長が在任している期間だけではなかなかなしえないことかもしれない。

反対に、この関係式から外れて、十分な「顧客数」がないにもかかわらず高い資格を持っている営業職員がいたら注意すべきである。特別な活動基盤を有したり、資格選考期間中に大きな契約を獲得したりするなどの特別な要因がなければ、何らかの無理が働いていると考えるのが自然である。実際、不祥事件を惹起したケースを分析すると、いくつかの例でこの関係式から大きく外れた事例が見られた。
 
次は育成についてである。

それまでは目先の目標ばかりを考えていて、「育成の到達点」というものを深く考えたことはなかったが、この関係式を踏まえると、それは極めて明確なものとなる。

つまり、前述のとおり毎月3件を安定的に挙績できる営業職員を育成するためには200顧客、毎月2件挙績では150顧客、毎月1件挙績でも100顧客が最低必要であり、まずこの顧客数を確保することが重要になるが、これに到達するためには、新人が毎月2件ずつ挙績するとして、200顧客であれば100カ月(8年4カ月)、150顧客であれば75カ月(6年3ケ月)、100顧客であれば50カ月(4年2カ月)が必要となる。また、毎月3件挙績するならば、各々67カ月(5年7カ月)、50カ月(4年2ケ月)、34カ月(2年10カ月)かかることとなる。

平成初期は日本生命全体で毎月4件以上挙績する新人は年間で1000人以上いたと記憶しているが、そのような時代であれば、育成は大して難しくはなかっただろう。しかし、当時と違い令和の現在では、人口が減少し、保険市場も成熟化し、競争も激しく、活動の制約も大きいなど、マイナス要因ばかりであり、育成のなんと遠いことかと思う。
そのような状況を踏まえて、これからは営業職員の新人育成は長期戦になるということを覚悟しなくてはならない。そのためには、

(1) 長期戦に耐えうる人材の採用
(2) 長期戦を支えうる活動基盤の準備
(3) 長期戦を支えうる給与体系の構築
(4) 長期戦を前提とした育成期間の設定
(5) 支社長・機関長の育成意識・取組の継承

といった諸点は不可欠であり、今日的には一つも欠くことなく実現しなくてはならないだろう。
 
実際、長期戦になることを前提に、自分のできる範囲で、採用育成に取組もうとしたが、失敗や軋轢も多々あり、当然のことながらすぐには結果もでないため、限界感や喪失感を感じながらの3年間であった。しかし、離任して数年経ち、赴任支社の在籍状況をみたとき、支部長補佐(育成を専管とするチ-ムリーダー。チ-ム員はすべて育成層であり、成績優秀な職員から任命)の約半数が支社長在任中に採用した営業職員たちで占められていることがわかり、とてもうれしく思った。育成の成果ずっと後から判明するものなので、在任中はやきもきするし、離任したら別の仕事に就くため忘れてしまうが、後から振り返るシステムや文化をつくることも重要なことと思う。

生活研究部   専務取締役 部長

大畑 貴彦(おおはた たかひこ)

研究領域:暮らし

研究・専門分野
生活研究部統括

経歴

【職歴】
1986年 日本生命保険相互会社 入社
2017年 ニッセイ基礎研究所 社会研究部部長
2019年 取締役 社会研究部部長
2020年 大樹生命保険株式会社 監査役
2023年 ニッセイ基礎研究所 常務取締役 生活研究部部長
2025年 ニッセイ基礎研究所 専務取締役 生活研究部部長(現職)

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