2―IAIGsとは
まずは、これまでのレポートの繰り返しになるが、IAIGsについて説明しておく。
IAIGsというのは、英語で「Internationally Active Insurance Groups(国際的に活動する保険グループ)」と呼ばれており、その言葉通りに、「国際的に有意なレベルで保険事業活動を展開している保険グループ」のことを指している。その具体的な選定基準については、IAISが定量的基準等を定めている。また、IAIGsに対しては、特別な監督・規制が行われることになっている。
1|IAIGs の選定基準
IAIGs の選定基準のうちの定量的基準は以下の通りとなっている。
(1) 国際的活動
・3つ以上の管轄区域において、保険料が計上されていること、及び
・本店所在管轄区域外のGWP(Gross Written Premium:総収入保険料)のグループ全体のGWPに対する割合が10%以上
(2) 規模(3 年移動平均)
・総資産が500 億米ドル以上、又は
・全体のGWPが100 億米ドル以上
ただし、これらの定量的基準に関わらず、グループ全体ベースでIAIGs の監督に対して責任を有しているGWS(グループ全体の監督者)が、限定された状況において、グループがIAIGs とみなされるかどうかを判断するための裁量権を有している。例えば、(a)自国の保険事業活動が重大である場合、(b)合併及び買収あるいは売却等により、近い将来に基準を満たすあるいは満たさなくなる場合、等が想定されている。
2|今回のIAIGs の指定に関する情報の公表
GWSが、IAIGs の指定を公表するが、場合によっては、この開示が法的変更又は規制措置を必要とすることがある。
IAISは、このコミットメントを達成するためのGWSの進捗状況を監視する。IAISは、GWSによって公開されたIAIGs の公開登録を編集する。登録簿には、公開されたIAIGs の数とIAIGs の基準の充足又は監督裁量の行使に基づいてGWSにより特定されたIAIGs の総数を比較した情報が添付されることになっている。
3|IAIGsに対する監督・規制
IAIGsの監督のための共通の枠組みとして、IAISは、2019年11月に、ComFrame(Common Framework for the Supervision of Internationally Active Insurance Groups:国際的に活動する保険グループの監督のための共通の枠組み)を採択している。
このComFrameの中で、IAIGs に対する監督・規制内容としては、(1)監督当局の枠組み(監督カレッジの組成や危機管理グループ(CMG)の設立)、(2)資本規制、(3)再建・破綻処理計画、(4)グループガバナンス、(5)ERM(統合的リスク管理)、等が挙げられている。それぞれの項目の具体的な内容については、今回のレポートの趣旨ではないので触れないが、例えば、「(2)資本規制」について、IAISはComFrameの一環としてICS(保険資本基準)を策定中である。
3―IAISによるIAIGsの指定に関する登録簿の最新情報
3―IAISによるIAIGsの指定に関する登録簿の最新情報
IAISは、IAIGsの指定に関して、情報の更新を行っているので、ここではその内容を報告する。
1|今回の情報更新に基づいて、IAIGsに指定された保険グループの状況
今回のIAISによる情報更新により、全体で19の国・地域からの 55のIAIGs(の全て)が公開されている。前回のレポートからは、米国からPacific Life、スウェーデンからNordea Liv、バミューダからAegonとAthoraの2つのグループが新たに加わっているが、このうちのAegonは本部の移転に伴い、グループの監督当局がオランダからバミューダに変更になったことに伴うものであり、結果的に新たに3グループが加わった形になっている。
これらの55のIAIGsの管轄区域別の内訳は、以下の通りとなっている(下線部が前回のレポートの報告からの変更箇所である)。
2|新たにIAIGsに指定された保険グループの概要
(1) Nordea Liv、NLP Group
NLP(Nordea Life & Pensions)は、北欧最大の金融グループであるNordea グループの一員であり、企業向けの職域年金のほか、個人向けの生命保険・年金保険も提供している。北欧4カ国に焦点を当てて、事業展開を行っている。
2022年のGWP(収入保険料)は5,189百万ユーロ、2022年末の総資産は70,018百万ユーロ、AuM(運用資産残高)は67,376百万ユーロとなっている。その主たる内訳は、GWP(スウェーデン2,475百万ユーロ、ノルウェー1,546百万ユーロ、フィンランド1,168百万ユーロ、デンマークN.A,)、AuM(スウェーデン20,378百万ユーロ、ノルウェー17,366百万ユーロ、フィンランド118,880百万ユーロ、デンマーク11,307百万ユーロ)となっている。
(2) Pacific Life Group
リテール、機関投資家、従業員福利厚生及び再保険市場において、個人と企業の経済的安全を確保することを目的とした様々な商品とサービスを提供している。保険商品は、ニューヨーク州を除く全ての州では Pacific Life Insurance Company によって提供され、ニューヨーク州では Pacific Life & Annuity Company によって提供されている。
2022年の保険料と手数料(Policy fees and insurance premiums)は8,314百万ドル(うち、Insurance premiumsは5,168百万ドル)、2022年末の総資産は199,324百万ドルとなっている。
なお、AM Best社の2022年Financial Resultsに基づく米国の生命保険/健康保険グループランキングによれば、認容資産(Admitted Assets)は187,209百万ドルで第17位となっている。
(3) Athora Group
欧州の生命保険会社Athora は、欧州を代表する貯蓄及び退職サービス グループで、子会社を通じて、他の保険会社からのポートフォリオの買収、譲渡、再保険を通じてフランチャイズを拡大することと、非常に効果的なリスク管理フレームワーク及び特定保険会社の長期安定性の中で競争力のある長期収益を顧客に提供すること、の両方に重点を置いている。ベルギー、ドイツ、イタリア、オランダで元受保険事業を展開し、バミューダとアイルランドで再保険子会社を展開している。
Athora Holding Ltd.は、Athoraの主要な再保険子会社であるAthora Life Re とともに、バミューダに本拠を置いている。
2022年の保険料(Gross earned premiums)は2,457百万ユーロ、2022末の総資産は91,926百万ユーロとなっている。
なお、Athoraは、PE(プライベートエクイティ)会社大手のApolloが戦略的株式を保有していることから、PE会社所有の保険グループがIAIGsに指定されたことになる。PE会社所有の保険会社は、その数が増加し、規模も大きくなってきていることから、その国際的な活動等における監督・監視規制のあり方等について、注目されるところとなってきている。
(参考)AthoraとApolloの関係について
AthoraのHPの説明
1からの抜粋等によると、以下の通りとなっている。
Apollo Global Management(及びその子会社)は、世界的なオルタナティブ資産運用会社で、その運用資産は、2022年12月31日時点で約 5,480 億ドルとなっている。
Apolloは、個人や団体向けに設計された退職貯蓄商品の発行、再保険、取得を行う大手退職サービス会社であるAtheneとともにAthora の共同創設者で、Athora は、2018 年 1 月 1 日までは Athene の子会社だったが、2022年1月1日、Athene は Apollo Global Management, Inc. の完全子会社に合併され、その結果、Athene は Apollo Global Management, Inc. の完全子会社となった。
Apolloは Athoraとの戦略的関係を維持しており、子会社である Apollo Asset Management Europe LLP を通じて、Athora に特定の資産管理と専門的な投資専門知識を提供している。Apolloはまた、Athoraの事業を成長させるために、直接投資管理、資産配分、資産デューデリジェンス、合併と買収、運営サポートサービス(投資コンプライアンス、税金、法律及びリスク管理など)に関するアドバイスや、企業の成長に向けた買収機会の特定と活用等のアドバイザリーサービスも提供している。
Atheneを含めて、Apolloは、取締役会に5人のメンバーを有し、2022年12月31日時点でAthoraの株式資本に対して23.25%の経済的利益を有していた。
4―まとめ
4―まとめ
以上、今回のレポートでは、IAISによるIAIGsの指定に関する最新情報について報告してきた。
これまでのレポートで述べてきたように、IAIGsの指定グループの数は、それぞれの国や地域における保険市場や保険グループの海外展開の状況、さらには保険監督当局のスタンス等を反映して、それぞれの国・地域自体の保険市場の規模や一般的に認識されている大規模な保険グループの数等とは必ずしもリンクする形にはなっていない。
なお、IAIGsの指定については、適宜見直しが行われていくことになっている。
買収や合併、さらには売却等の地域別の事業展開の見直し等のグループ会社の戦略や以前のPrudentialや今回のAegonに見られるようなグループの再編等に伴うグループ本社の管轄区域の変更等に伴って、IAIGsのリストへの新たな追加や削除等が行われていくことにもなる。
各管轄区域においては、今後も適宜、IAIGsの指定の見直し等が行われていくことが想定されることになる。
IAIGsの指定に関する状況は、IAIGsに対する監督・規制を巡る状況と共に、関係者の関心の高い事項であることから、今後ともその動向を引き続き注視していくこととしたい。