今後、特定技能が拡大・定着していくと、日本にはより多くの外国人労働者が働くことになると思われる。しかしながら、外国人労働者がより安心して活躍できる社会を作るためには改善する点も多いのが事実である。
まずは外国人労働者が働く労働条件を改善する必要がある。ご存知のとおり、特定技能という在留資格で働く分野は、相対的に労働条件が厳しい業種や仕事が多い。政府は、少子高齢化により若い人口が減少する中で、このような業種や仕事には日本の若者が集まらないので、外国人労働者を受け入れ、人手不足の問題を解決しようとしている。最初は日本という国に憧れ、日本に来てくれるかもしれないが、労働条件が他の業種あるいは他の国に比べてよくないことがSNSなどにより分かると、政府の計画どおりに外国人労働者を確保することが難しくなる可能性も高い。
2番目は外国人労働者に対する差別の問題を解決する必要がある。残念ながら、日本には外国人労働者に対する差別やいじめ、パワハラが今も残っている。旅券の取り上げや恋愛・結婚・妊娠禁止といった人権侵害も起きている。その結果、うつ病やPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状になるケースもあり、最悪の場合は自殺に至ることもある。特に、アジア系の労働者に対する差別が多く、外国人の間では出身国によって日本人の「まなざし」が変わるという話まで広がっている。
3番目は悪質ブローカーを排除するための対策をより徹底的に行うことが大事である。以前から実施されてきた技能実習の場合、悪質ブローカーによる搾取が大きな問題になっていた。実習生は入国前の費用調達のため多額の借金を背負っている。日本に来るために渡航する前に、母国の送り出し機関(ブローカー)に多額の費用を支払っているからである。例えば、ベトナム人の場合、実習生として来日するためには少なくとも数十万円、多い場合100万円以上の費用がかかるそうである。実習生の多くは借金を返済するために、長時間労働や賃金の未払い、そしてパワハラ等があっても我慢するケースが多い。さらに、国内でも技能実習生の受け入れを仲介する監理団体が、不当に高額な費用を徴収するケースもあると報告されている。新しく導入した制度でも相変わらずブローカーと関わる問題は残されていると思われる。政府は、今後、送り出し国や国内の悪質なブローカーの活動を規制する対策を徹底的に行う必要がある。
4番目は制度をよりシンプルにし、企業の負担を最小化する支援を行うべきである。企業が外国人労働者のために日本語教育を企業負担で実施、常勤で通訳スタップを配置、安価な寮費で住まいを提供するなど経済的なサポートを実施している例がある。このようなサポートについて、企業のみに負担させるのではなく、公的支援の導入も考えていくべきであろう。
出入国在留管理庁は2020年5月29日に、在留資格「特定技能」で日本に在留する外国人が2020年3月末時点で3987になったと発表した。政府は初年度となる2019年度の受け入れ人数を最大4万7千人と見込んでいたが、1割以下にとどまった。入管庁は、当初の想定を大幅に下回った理由について「海外の送り出し国の手続き整備などに時間がかかった」と説明した。さらに、現在、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、日本を含む各国で出入国が制限されたほか、企業の経営環境は厳しさを増しており、今後の受け入れ数が大きく伸びるかは不確実な状況である。新制度により外国人労働者を雇用する企業の経済的負担を減らすと共に、手続きをより簡単にするなど制度を再点検する必要がある。
今後は以上のような問題点を解決するための努力を続けると共に、特定技能の代わりに、海外で導入・実施している労働許可制や雇用許可制
2の導入も考えることが望ましい。そうなると、今後、より多くの外国人労働者が日本で活躍することができると考えられる。
2 労働許可制は、事業場の移動を保障し、同一労働同一賃金の実施を重視しており、ドイツやシンガポールなどが導入している。一方、雇用許可制は、国内で労働者を雇用できない企業が政府から雇用許可書の発給を得て、合法的に外国人労働者を雇用する制度であり、韓国が導入している。