保険業法施行規則の改正を経て、民間保険会社が、骨髄提供者(ドナー)に対する保障を提供する保険商品を開発・販売開始した。
プルデンシャル生命保険株式会社は、2005年4月に、日本発のサービスとして、同社の医療保険契約および各種入院総合保障特約に加入する保険契約者を対象に、新たな保険料の追加負担を求めることなく、被保険者が骨髄幹細胞採取手術を受けた場合に、入院給付金日額の20倍の手術給付金を支払うということを発表した
7。
その後、同社は、2014年8月24日に、給付範囲を拡大し、従来の骨髄幹細胞採取手術に加えて、末梢血幹細胞採取手術も支払いの対象とすることを発表している
8。この給付範囲拡大についても、保険料の変更はなく、また、2014年8月24日以前に同社の医療保険等に加入している場合でも、8月25日以後に末梢血幹細胞採取手術を受けた場合は支払い対象とするとしている。
筆者が保険会社のホームページ等で確認したところ、プルデンシャル生命保険株式会社以外にも、骨髄提供者(ドナー)に対する保障を提供する個人向けの保険商品を発売している会社があり、生命保険会社ではプルデンシャル生命保険株式会社も含めて22社、損害保険会社では3社確認できた
9。
これら22社の生命保険会社が販売している個人向け商品は後掲の表のとおりである
10。
生命保険会社が販売している骨髄提供者(ドナー)に対して保障を提供する個人向けの保険商品は、ほとんどの商品がプルデンシャル生命と同様に骨髄幹細胞採取手術と末梢血幹細胞採取手術を保障対象としている。骨髄提供者(ドナー)に対して保障を提供する保険商品の特徴としては、生命保険会社が契約上の責任を開始する時期である責任開始期
11から1年経過後の骨髄幹細胞採取手術や末梢血幹細胞採取手術を保障対象としていること、骨髄幹細胞や梢血幹細胞の提供者と受容者が同一の場合は、骨髄提供者への保障としては対象外としていることが共通している。
その上で、骨髄幹細胞採取手術や末梢血幹細胞採取手術を受けたとき、手術1回について、骨髄ドナー給付金や手術給付金を支払うという商品が多数を占めている。こうした商品において、骨髄ドナー給付金や手術給付金は保険期間を通じて1回または2回といった支払回数の限度を設けている会社が多いが、中には支払回数の限度を設けていない会社もある
12。なお、骨髄や末梢血幹細胞の提供については、骨髄バンクでは、血縁・非血縁にかかわらず、骨髄と末梢血幹細胞を合わせて2回まで提供可能としている(骨髄提供は、2回まで、末梢血幹細胞提供はG-CSFの長期的な安全性について科学的データを収集中であるため、現時点では1回までとしている。)
13。
また、骨髄幹細胞採取手術または末梢血幹細胞採取術を受けることを要件に、骨髄幹細胞採取手術または末梢血幹細胞採取手術を直接の目的とする入院について入院給付金等保険給付を行う商品を販売している会社もあり、入院日数に応じた保険給付を行う商品や、入院1回について一時金を支払う商品などの商品が販売されている。
骨髄幹細胞採取手術や末梢血幹細胞採取手術を受けたとき、手術1回について、骨髄ドナー給付金や手術給付金を支払うとともに、入院についても保険給付を行う商品もある
14。
告知項目を限定したり、割増保険料を設定したりし、引受基準を緩和して、持病がある方や入院・手術の経験がある方など健康状態に不安を抱えている方でも加入しやすいような引受基準緩和型商品、限定告知型商品といわれる商品も販売されている
15。
これらの骨髄提供者(ドナー)に対して保障を提供する個人向けの保険商品を販売している複数の会社は、日本骨髄バンクが発行する証明書で保険給付の請求が可能のようである
16。
骨髄提供者(ドナー)に対する保障を提供する個人向けの保険商品を発売している損害保険会社には、あいおいニッセイ同和損害保険株式会社、ソニー損害保険株式会社、損害保険ジャパン日本興亜株式会社がある。
損害保険会社が販売している骨髄提供者(ドナー)に対して保障を提供する個人向けの保険商品は、所得補償保険に骨髄採取手術に伴う入院補償特約を付加し、骨髄採取手術による就業不能に対して保険給付を行う商品
17と生命保険会社の商品と同様に骨髄幹細胞採取手術や末梢血幹細胞採取手術を受けたとき、手術1回について手術保険金、髄幹細胞採取手術または末梢血幹細胞採取術を直接の目的とする入院について疾病入院保険金を支払うという商品
18が販売されている。いずれの損害保険会社の商品にも、生命保険会社が販売している商品において共通の特徴としてみられた、保険始期 から1年経過後の採取手術を保障対象としていること、骨髄幹細胞の提供者と受容者が同一の場合は保障の対象外としていることは共通の特徴としてみられる。
以上の保険会社の個人向け商品のほかにも、団体向けの商品にも骨髄提供者(ドナー)に対して保障を提供する商品がある
19。
また、保険会社の商品のほかにも、共済にも骨髄提供者(ドナー)の保障するものがある。例えば、UAゼンセンの医療共済
20、全労災の団体向けのこくみん共済
21がある。
7 プルデンシャル生命保険株式会社「血液難病者に一大朗報ドナー側に手術給付金の道つける」2005年4月21日(https://www.prudential.co.jp/news/pdf/8/20050421.pdf, 2019 年11 月14 日最終閲覧)、「プルデンシャルだから実現した日本初のサービス」(https://www.prudential.co.jp/company/philosophy/first.html, 2019 年11月14 日最終閲覧)
8 プルデンシャル生命保険株式会社「ドナー・ニーズ・ベネフィット(骨髄ドナー給付)の給付範囲を拡大」2014年8月25日(https://www.prudential.co.jp/news/pdf/358/20140825_1.pdf, 2019 年11 月14 日最終閲覧)
9 日本骨髄バンクも骨髄ドナーに対する給付等がある商品を紹介しており、生命保険会社が14社、損害保険会社が2社、共済/互助会が2共済が紹介されている(「骨髄ドナーに対する給付等がある商品の概要」(https://www.jmdp.or.jp/documents/file/02_donation/benefit_gaiyou19_09.pdf, 2019 年11 月7 日最終閲覧))。
10 表に記載の保険商品は筆者が確認した時に新規に販売している商品を記載しているので、既に販売停止している骨髄提供者(ドナー)に対する保障を提供する保険商品は記載していない。
11 生命保険会社が契約上の責任を開始する時期が責任開始期といわれている。(公益財団法人 生命保険文化センター「契約申込みから契約成立までの流れと重要事項」(http://www.jili.or.jp/knows_learns/basic/point/important.html#sekininkaisi, 2019 年10月3 日最終閲覧)))
12 オリックス生命保険株式会社(無配当無解約払戻金型医療保険(2013)、無配当引受基準緩和型医療保険(2019))、ソニー生命保険株式会社(総合医療保険、総合医療保険(無解約返戻金型)18)、大樹生命保険株式会社(総合医療特約016)、ネオファースト生命(手術保障特約(2018)、手術保障特約(引受基準緩和型))、はなさく生命保険株式会社(医療終身保険(無解約返戻金型))、マニュライフ生命保険株式会社 (無配当保険料払込期間中無解約返戻金型終身医療保険(16)) 、楽天生命保険株式会社(終身医療保険2018[無配当]、限定告知型医療保険2018)は支払回数の限度を設けていないようである。
13 日本骨髄バンク「ドナーのためのハンドブック」47頁(https://www.jmdp.or.jp/documents/file/02_donation/donorhandbook201905.pdf, 2019 年10月3 日最終閲覧)
14 住友生命保険相互会社、太陽生命保険株式会社の2社が販売している。
15 オリックス生命保険株式会社(無配当引受基準緩和型医療保険(2019))、SOMPOひまわり生命保険株式会社(払込期間中無解約返戻金限定告知医療保険)、東京海上日動あんしん生命保険株式会社 (医療保険(引受基準緩和・無解約返戻金型))、ネオファースト生命保険株式会社(手術保障特約(引受基準緩和型))、メットライフ生命保険株式会社(終身手術総合保障特約(引受基準緩和型))、楽天生命保険株式会社(限定告知型医療保険2018)。
16 日本骨髄バンク「ドナー登録されている方へ提供により給付金が支払われる保険」(https://www.jmdp.or.jp/donation/about/benefit.html, 2019 年11月6 日最終閲覧)
17 あいおいニッセイ同和損害保険株式会社(https://ey.aioinissaydowa.co.jp/eydocs/webyakkan/html/ad/008a.html, 2019 年11月6 日最終閲覧)、損害保険ジャパン日本興亜株式会社(https://www.sjnk.co.jp/~/media/SJNK/files/kinsurance/yakkan/syotoku1910_yakkan.pdf, 2019 年11月6 日最終閲覧)が販売している。
18 ソニー損害保険株式会社(骨髄幹細胞採取手術保障特約(傷害および疾病による入院・手術保障特約用))が販売している(https://www.sonysonpo.co.jp/share/pdf/md/sure/yakkan_20181001.pdf, 2019 年11月6 日最終閲覧)。
19 例えば、第一生命保険株式会社が販売している新医療保障保険(団体型)がある(https://www.dai-ichi-life.co.jp/legal/hokenkin/shin_iryou.html, 2019 年11月6 日最終閲覧)。
20 UAゼンセン医療共済(http://uazensenkyosai.jp/iryou.html#topic2, 2019 年11月6 日最終閲覧)。
21 全労災こくみん共済(https://www.zenrosai.coop/dantai/dantai_seimei/hoshou.html, 2019 年11月6 日最終閲覧)。保障内容は団体ごとに設計可能とされている。
5――おわりに