私立幼稚園の会計不正が増え始めたのは、2012年に無償保育政策が実施されてからだと考えられる。毎年2兆ウォンを超える国の予算が私立幼稚園に支給されることにより、私立幼稚園の財政状況は以前より豊かになり、会計不正に手を染める幼稚園が増えるようになった。地域の教育庁からの監査も人手不足等を理由にまともに実施されず、例え、監査が実施され会計不正が摘発されても、横領した金額を返却する程度の軽い処罰に終わるケースが多かった。
私立幼稚園を巡る会計不正事件が社会問題に発展すると、与党・政府は、10月25日に幼稚園の会計不正に関する緊急会議を開き、不正防止のための総合対策を発表した。その主な内容は(1)国公立幼稚園を全体の40%までに増やす目標を早期に達成、(2)国公立学校に適用される国家管理会計システム「Edufine」を適用、(3)私立幼稚園の一斉休園や一方的な廃園を防ぐため関連法を改正、(4)幼稚園設立者の欠格基準新設と幼稚園園長資格の認定基準強化、(5)私立幼稚園の法人化推進等である。国公立幼稚園を全体の40%に増やす目標は、文在寅(ムン・ジェイン)政権の国政課題で、当初は2022年を目標期限としていたものの、今回の発表では達成時期を2021年に繰り上げた。
また、私立幼稚園の不正防止のために与党は「朴用鎮3法」と言われている法律改正も推進している。朴用鎮3法は、私立学校法、幼児教育法、学校給食法の改正案の総称である。私立幼稚園の場合、設立者が園長を兼任することが多く、会計不正に対する処分が実現しにくい仕組みになっている。つまり、監査などにより不正が摘発された場合、地域の教育庁は設立者に対して園長など責任者への懲戒を求めるものの、設立者と園長が同一人物であるケースが多く、自分が自分を懲戒する「セルフ懲戒」を行う結果、軽い処罰に終わってしまうことが多い。従って、今後設立者は園長の兼職ができないように私立学校法を改正することにより会計不正等に対する懲戒を強化する方針である。
次いで、年間約2兆ウォンの予算が使われている「ヌリ
2課程」(満3~5歳の幼児が受ける共通の教育課程)に支給されているお金の名目を「支援金」から「補助金」に変えるために幼児教育法を改正する。どちらも国や地方公共団体から支払われる返済不要のお金ではあるものの、支援金は、目的以外に使われていても処罰基準がないため、今回の会計不正の一因となっている。一方、補助金は目的以外に使われた場合に横領罪で処罰することができるので、不正を減らすのに効果があると期待されている。
最後に、学校給食法も改正する方針である。現在、幼稚園は私立学校法により学校として分類されているものの、小中高校に適用されている学校給食法の適用対象から除外されていた。その結果、幼稚園には栄養士を配置する義務がないため、衛生状態が悪く、量・質ともに十分ではない給食が提供されるケースが多かった。幼稚園の園長などは実際に使うべき食材の量より少ない量を発注し、その給食を園児や教諭全員に分け与えることによって差額の給食費を流用していたのである。
選挙などへの影響力が大きいために、サムスンの改革より難しいと言われていた幼稚園の改革が始まろうとしている。誰もが躊躇していた幼稚園改革を正面から突破しようとしている国会議員の勇気にまず拍手を送りたい。しかしながら、「幼稚園3法」(私立学校法、幼児教育法、学校給食法の改正案)は、処罰のレベルや法案施行の時期などをめぐる野党「自由韓国党」の反対により、年内に通常国会で成立する見通しは厳しい状況にある。
韓国の2018年の7-9月期の合計特殊出生率は1人を切っており、2018年を通じても合計特殊出生率は1人に満たない見通しである。幼稚園の改革がこれ以上遅れると、少子化の問題はさらに厳しくなる恐れがある。与野党を離れて、安心して子育てができる環境を整備することに力を合わせる必要がある。
2 ヌリとは「世の中」を意味する韓国語で、ヌリ課程の実施により、オリニジップと幼稚園に分かれていた保育と教育課程が統合され、満5歳のすべての子供は同じ教育サービスを受けることになった。