1|経済不安の強まり
まず指摘できることは、消費者全体で経済不安が強まっていることだ。
足元の雇用環境は改善しているが、長らく続いた景気低迷の中で若い世代ほど厳しい雇用環境にある。非正規雇用者が増え、正規雇用者であっても賃金水準が下がっている。さらに、現役世代では少子高齢化による社会保障制度の世代間格差の懸念もある。
一方で高齢者でも年金受給額の引き下げや医療費自己負担額の引き上げにより、生活防衛意識の強まりが予想される。次世代の厳しい経済環境から、経済面では子や孫を頼りにくい状況もあるだろう。
2|高齢化の進行
高齢化の進行も消費が活性しにくい理由の1つだ。世帯当たりの消費額は、世帯人員数の増加に伴い、世帯主の年齢が40~50代の世帯で膨らみ、60代以降では減少に転じる。60代以上の世帯は世帯数で45.1%、消費額で41.3%を占める(総務省「平成28年家計調査」)。また、高齢世帯では、無職世帯が60代で47.3%、70代以上で82.3%であり、賃金が増えても影響を受けにくい。
なお、現在の消費額を基に世帯構造の変化を考慮して、国内最終家計消費支出を推計すると、高齢世帯の増加に伴い、2025年頃から減少に転じる見込みだ。
3|お金を使わなくてもすむ消費社会
消費社会の成熟化や技術革新の恩恵を受けて、お金を出さなくても質の高い消費生活を楽しめる環境もある。
ファストフードやファストファッション、LCC、安価な家電製品など、生活の各領域において、お金をかけずに楽しめる環境が広がっている。さらに、最近ではシェアリングサービスにより、従来は購入していた商品でも購入しなくてもすむ環境も広がっている。カーシェアやライドシェア、自転車のシェアサイクルサービスも都市部を中心に広がっている。ファッションでも、スタイリストが選んだ洋服が送られてくる、あるいは、高級ブランドバッグが借り放題といったものも登場している。
「ヒト」を時間単位でシェアするという考え方で、家事代行やシッターのシェアリングサービスもある。運営者は、利用者と提供者のマッチングサイトを用意し、利用者と提供者が直接契約する仕組みだ。運営コストや仲介コストを抑えられるため、従来と比べて低価格となる。また、直接契約であるため、提供者の手元に入る金額も増える。現在、低価格化により共働き世帯を中心に人気が高まっているようだ。
4|スマート消費が格好良い?
安価で便利な商品やサービスがあふれる中で、消費者の価値観が変容している可能性もある。「良いモノ」が必ずしも高額ではなくなることで、バブル期に見られたような「高級品」=「良いモノ」という意識は弱まり、高級品を買うことへの憧れも薄れているのではないか。また、モノがあふれる中では、そもそもモノを欲しいという欲求も弱まるだろう。
さらに、技術革新による高機能化で、1つの商品で従来の複数商品を代替できるようにもなっている。例えば、若い男性世帯ではテレビの保有率が下がっているが、スマートフォンが1台あればデジカメや携帯音楽プレイヤー、書籍・雑誌等を買う必要がなくなる。
経済不安が強まる中では、るのではないか。必要以上にモノを買わない「ミニマリスト」的な消費態度は、「エコ」という観点でも評価が高まるだろう。
また、これらの傾向は若年世帯で強くなっている。勤労者世帯の可処分所得と消費支出の関係を見ると、若年世帯では、可処分所得の減少幅に対して消費支出の減少幅が大きい傾向がある[図表2]。つまり、若年世帯では所得の減少以上に消費額が減っており、消費性向が低下している。