日銀短観(6月調査)~大企業製造業の景況感は2期連続で悪化、貿易摩擦の影響はまだ限定的

2018年07月02日

(上野 剛志) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

■要旨
  1. 日銀短観6月調査では、注目度の高い大企業製造業の業況判断D.I.が前回調査比で3ポイント下落し、2四半期連続となる景況感の悪化が示された。一方、大企業非製造業では、わずかに景況感が持ち直した。大企業製造業では、長引くIT関連材の生産調整や原材料価格上昇の悪影響等により景況感が悪化した。一方、大企業非製造業では、好調なインバウンド需要や一部での値上げ浸透を追い風に景況感が改善したが、家計の節約志向が重石となった。中小企業の景況感は製造業、非製造業ともにやや悪化。非製造業では人手不足が影響したとみられる。
     
  2. 先行きの景況感は大企業製造業で横ばい、その他では弱含んだが、前回に比べて悪化幅は小幅に留まった。トランプ政権は保護主義的な動きに拍車をかけており、企業の警戒感は高まっている可能性が高いが、事態は未だ流動的で影響も不透明な状況にある。一方で、内外経済の回復期待は続いているとみられ、今のところ景況感の大幅な悪化は回避されたと考えられる。
     
  3. 2018年度の設備投資計画(全規模計)は、前年比7.9%増と大幅に上方修正された。前回調査でも例年と比べて高めの伸び率であったが、今回の修正の結果、例年よりも大幅に高い伸び率となった。例年6月調査では上方修正される傾向が強いというだけでなく、良好な収益状況を受けた投資余力の改善や、投資家による資金の有効活用を求める圧力、人手不足に伴う省力化投資などが追い風となり、実勢としても強い投資スタンスが示された。貿易摩擦への懸念は設備投資意欲に影を落とす要因だが、事態は未だ流動的であり、企業としても影響を設備投資判断に織り込みづらい状況にある。ただし、今後、貿易戦争の様相が強まり、世界経済に悪影響が出てくれば、設備投資計画が慎重化する恐れが高いため、楽観視はできない。

経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志(うえの つよし)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴

・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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