中村 亮一()
研究領域:保険
研究・専門分野
今、何を変更する必要があるのか?
リスクマージンと長期資本較正
欧州委員会は、健全なプルデンシャルな正当性があり、ユンケル委員会6の欧州の成長と投資の野望を支える2018年の検討の一環として、具体的な措置を講じる必要がある。
・現在の過度なリスクマージンが保険会社の長期的な商品と長期的な投資能力に及ぼす影響を認識することにより、リスクマージンにおける資本コストを削減する。
・非上場株式以外の資本に対する長期投資の資本要件を削減する。これらは現在、実際のリスクと比較して過剰であり、投資の増加に対する阻害要因になっている。
株式は、例えば、年金商品によって退職後の生活費をカバーするのに必要な望ましい長期的なリターンを提供するのを助けるために、、分散化されたポートフォリオ内で必要となる。株式投資はまた、欧州での成長と雇用の原動力になる。顧客を危険にさらすことなく、大幅により低い資本コストを正当化できる。より大きな投資は、経済と同様顧客に恩恵を与える。
リスクマージンは理論的な概念に過ぎないが、現時点では、保険会社のバランスシートから潜在的に生産性の高い2,000億ユーロを超える資本金を除去している。顧客に請求を支払う必要はないが、保険会社の負債はそれらが取引されているかのように評価されるべきであるという理論に結びついている。一部の長期商品では、ソルベンシー資本要件を倍増するのと同じ効果がある。リスクマージンの計算における重要な要素である資本コストは、現在の6%よりも大幅に低くなければならない、という広範な証拠があり、この証拠は無視されるべきではない。問題の大きさを考えると、いくつかの改善が2018年のレビューでなされるべきである。リスクマージンの必要性とその設計についてのより幅広い問題は、2020年のレビューにおける優先事項となりうる。
変更してはいけないことは何か?
金利リスクとLAC DT
EIOPAの金利リスク及び繰延税金の損失吸収能力(LAC DT)に対する提案された変更は、ユンケル委員会の成長目標と矛盾するものであり、これを先取りすべきではない。
・金利リスクの較正は変更すべきでない。変更は、保険契約者の保護を確実にするために必要なものではなく、長期契約への障壁を増加させる。金利は、評価手法に関するより幅広い基本的な問題に直接的に関連しており、2020年のレビューで取り扱われるべきである。
・繰延税金の損失吸収能力に任意の制限を課すべきではない。ソルベンシーIIは、既にLAC DTの使用をサポートするために高い基準の証拠を要求している。
LAC DTの限度額は、資本要件を相殺するために使用できる税還元の割合に関連している。欧州委員会は、コンバージェンスの趣旨の下でEIOPAによって提案された人工的かつ控えめな制限を拒否すべきである。ソルベンシーIIは既に、欧州全体で非常に高度な調和を提供しており、会社や監督者がフレームワークの経験を積むにつれて、コンバージェンスの増加が期待されている。いくつかの考慮事項は、事業の性質、会社の概要及び税制など、LAC DTの制限に関する決定を規定している。したがって、フレームワークをはるかに保守的にし、保険会社に不必要な資本圧力をかけるような任意の制限を適用するのではなく、監督上の判断と対話を促す現行のプリンシプルベースのアプローチを維持する正当な理由がある。
金利アプローチは既に保守的であり、金利リスクの現在の較正に健全性の懸念を生じさせるべきではない。EIOPAのストレステストでは、既に長期にわたる超低金利に対する欧州保険業界の耐性力が実証されている。金利リスクへのいかなる変更も、保険会社の長期商品及び長期投資ならびに株式などの非固定利付資産への投資能力にマイナスの影響を与えることになる。この領域におけるEIOPAの影響評価は、簡素化と代理に基づいており、変更の実際のマイナスの影響を過小評価しているようにみえる。欧州委員会は、2020年のレビューでカバーされるより幅広い金利問題との関連性のために、EIOPAに2018年のレビューにおいて、この領域に関する助言を依頼しないとの正当な理由があった。
後で、何を変更する必要があるのか?
ソルベンシーIIが保険事業と投資の長期的な性質を正しく反映できるようにするため、2020年の全面的なレビューでは全体的な改善の考え方が必要となる。前述のように、2020年のレビューでは、リスクマージンの設計が優先されるべきである。また、金利リスクの較正は、負債及び金利の評価に関連するより幅広い問題に取り組む2020年に見直されるべきである。
ソルベンシーIIの特定の要素は、保険会社が常に資産及び負債を全て取引するという誤った前提に基づいているため、調整が必要となる。これは、間違ったリスクが測定されていることを意味し、過度な資本要件と人為的なボラティリティを招く。このことは、欧州委員会が設定した「持続可能な金融に関するハイレベル専門家グループ」の報告書7で強調された。実際、保険会社は長期で投資が可能であり、トレーダーとは異なり、悪い時にポートフォリオ全体を売却することは殆どない。
間違った措置を講じることは、より高い保険料、より低い給付、より少ない選択肢につながることから、消費者にとっても重要である。それは、保険会社が経済成長をサポートする能力を制限することになるため、経済にとっても重要である。