冒頭に見た小売企業の世界ランキングでは、比較的最近まで上位の常連であったカルフールとテスコが、業績不振を打開するため、本国と絞り込んだ少数の海外市場に集中しており、ランキングが下降している状況を見た。そのことからは、海外展開を行う前提として、本国での業績がしっかりしたものであることの重要性が改めて認識できる。
アジアの小売市場は、拡大しており、大きなビジネスチャンスがあるが、他方、各地では、地場企業・外資企業の間の激しい競争がある。また外資規制のある国も多い。さらに、現地の合弁先・提携先の企業と円滑に事業を運営する中で難しい局面が生ずる可能性があり、大手といえども外資企業がたやすく大きなマーケットシェアを獲得できるということはない。
上記の課題やリスクを克服し、成功するには外資有力企業の強みである近代経営手法、マーケティング、店舗の作り方、品揃えの豊富さ・高品質・ユニークさ(本国や国際的な拠点網を活かした調達による)、クリンリネス(清潔さ)、ITを有効に活用したデータの管理・活用、人材の育成など「グローバル標準化」が重要である。本国だけでなく、ある拠点の成功事例を組織学習し、横展開したり、各国の拠点が共同して商品やサービスの開発に当たること、有能な人材を獲得・育成して各国の拠点で活かすことなども、多国籍企業としての競争優位たる大きな強みであろう。
それと同時に、現地の商慣行・嗜好・文化を尊重すること、現地人材をトップ・幹部等として活用するヒトの現地化も含めた「現地適応化」が重要である。経営やヒトの現地化の例として以下の諸点を挙げたい。
(1)イオンによる中国本社・アセアン本社という二大地域統括拠点の設置による、現場感覚やニーズを踏まえた意思決定のスピードアップ、また、特にアセアン本社(在マレーシア)では、ベトナム・カンボジア・インドネシアなど周辺国の新たな拠点のスタッフへの教育・研修の実施なども行っている。
(2)テスコ(タイ)では、進出から約10年間で、管理職の人員を当初の約8割が外国人(非タイ人)という状況を約2割に減らし、多くの現地人幹部を増やし、現地人材の感覚やアイデアを活かして効果的なマーケティングやプロモーション等を行っている。
加えて、日系のコンビニエンスストア各社が、おでんの味を、各市場の嗜好に合せて、中華風や辛いトムヤム風などにアレンジしていることも適応化の好例である。
この拡大しつつも競争の激しいアジア小売市場での発展・成功を図るうえでは、上記の「グローバル標準化」と「現地適応化」の両立が重要であり、そのための工夫と努力が求められよう。
加えて、EC(電子商取引)の増加のトレンドも見逃せない。Amazonや京東商城など大手EC企業の動向については上述したが、EC専業の企業だけでなく、実店舗での販売を基本とする小売企業も自らECに取り組んだり、EC企業との提携を進める動き
9が加速化している。例えば、中国のEC企業の売り上げランキング(中国連鎖経営協会、2016)でみると、首位の京東商城に次いで、第2位蘇寧、7位国美の大手家電量販店等となっており、これまで店舗での販売を基本にしてきた企業がEC販売に注力していることが示されている。そのような環境下で、欧米日などの外資小売企業もECに注力している。他方、Amazonが長年赤字を続けて漸く黒字化し、京東商城が売上を急増しつつも、2015年に15.1億ドルの純損失を計上しているように収益性の動向にも注視すべきである。ECの拡大は、アセアン等多くのアジア諸国・地域にも広がっており、今後のアジア地域の小売市場や小売企業の動向を考える上で益々重要になると考えられる。
9 その中では、オンライン・ツー・オフライン(OtoO:オンラインと実店舗との提携・融合)という取引も増加している。