基準価額が個別元本を上回っている状態はその投資がうまくいった証である。この状態で支払われた分配金は普通分配金と呼ばれ課税の対象になる。もしNISAを使って投資をしていれば非課税の恩恵を得ることができる。これに対して基準価額が個別元本を下回っている場合は話が異なる。この状態で支払われた分配金(またはその一部)は元本払戻金(以前は特別分配金)と呼ばれる。その名が示すとおり投資家が支払った元本を払い戻しているに過ぎない。図表2で個別元本が階段状に下がって行くのは、毎月の分配金のうち元本払戻金に相当する額だけ個別元本を減算しているからである。
図表2に示した商品は最近まで1万口あたり毎月210円の分配金を払っている。年間では2,520円となる。このグラフの開始時点の基準価額は1万口あたり8,717円であるから、年率に直すと30%近い運用利回りを実現しない限り、分配金の一部は必然的に元本払戻金になる計算だ。また、難しい運用環境のもとで無理な分配を続けたためだろうか、肝心な基準価額も必ずしも順調な結果となっていない。これでは譲渡益を期待することも容易ではない。無理な分配金の支払いが運用を一段と難しいものにする悪循環を生む恐れも否定できない。ちなみにこの商品は現在分配金を毎月100円(年間1,200円)の水準まで引き下げているが、それでも直近の基準価額に対しては年率40%近い水準である。
現在はトランプ新政権に対する期待のもとで内外の株高やドル高円安が進行しており、こうした商品にも恩恵がありそうだ。しかし、上記の試算では個別元本が基準価額を上回る状態(即ち含み損の状態)が続いている。こうしてみると毎月分配型の商品では折角のNISAの非課税措置の仕組みを生かせない投資家が多数存在すると考えざるを得ない。もし、NISAの営業に際して金融機関が毎月分配型商品に力を入れてきたとしたら、それは3%を超える販売手数料狙いと勘ぐってしまうのは筆者だけではあるまい。
実はこのような問題に対する警鐘はNISAが始まった直後から鳴らされていた。例えば平成26年6月に金融庁が出した『NISA口座の利用状況等について』
2の中で、「NISA投資を行なう際に留意すべき点のある毎月分配型投資信託にも強いニーズが認められる」と記している。更にその注記には「元本払戻金が非課税であることがNISAを使った取引を勧誘する際に説明すべき留意事項である」と書かれている。しかしながら、その後も毎月分配型をめぐる問題は残ったようだ。今年の10月に発表したー『NISA制度の効果検証結果』
3では、「金融機関が顧客に紹介した投資信託は、顧客が説明した運用目的とは無関係にある収益分配頻度の高い商品が提案されている事例が目立つ」と指摘している。図表1が示す人気商品リストは、こうした指摘に対して金融機関が適切な対応をして来なかった証と言えないだろうか。
証券投資の成果を非課税扱いにすることは国として税収を減らすこと、即ちコストをかけることである。そうしたコストを正当化するには大義が必要ではないだろうか。それに相応しい大義が何かと言えば「自助努力に基づく資産形成を支援・促進すること」であろう。これを実現するために金融庁は、投資対象の分散、投資タイミングの分散、長期的な保有という原則を掲げている。こうした投資の原則に合致しない商品を金融庁自らの手でNISAから排除して行くことは当然の結論であり、責任だと思う。