英国のEU離脱が、英国の保険会社に与える影響としては、各種方面からの要素が考えられるが、まずは現在明らかに影響を受けているものとして、財務面への影響が考えられる。
1|市場の混乱・低迷による自己資本比率への影響
国民投票におけるEU離脱決定の発表を受けて、株式市場や為替市場がネガティブに反応している。これにより、保険会社の資産の価額が直接的な影響を受け、保険会社の自己資本比率であるソルベンシーⅡ比率に大きな影響を与えるのではないか、と懸念されている。
具体的には、FTSE100インデックスが大きく下落しており、英ポンドも他の通貨に対して、大きく下落している。一方で、英国国債の格付けは、S&Pが最上級のAAAからAAに2段階引き下げるとともに、FitchがAA+からAAに1段階引き下げ、Moody’sは現在Aa1 の格付けとしているが、3社とも今後の格付け見通しをネガティブに引き下げる等、格下げが行われている。ただし、これにも関わらず、英国国債の利回りは、リスク回避の動きの中でさらに低下しており、保険会社にとっては、収益面と資産のリスク評価という2つの面で、マイナスの影響を受ける形になっている。
これらの結果、英国国内を中心に営業することで、ポンド建の債務をポンド建資産に一致させる方針で、英国の投資への高いエクスポジャーを有している、英国の国内生命保険会社が相対的に最も大きな影響を受けることが想定される。
一方で、AvivaやPrudentialのように英国外での事業のウェイトが高い会社の場合には、分散効果で影響の程度も比較的少ないと想定される。これらの会社の場合、英ポンドの下落は、英ポンド換算による表面上の業績数値にはプラスに働くことにもなる。
ただし、いずれにしても、今回の株式・債券市場の動きについては、現時点においては、保険会社が日常的に行っているストレステストに比べて、それほど極端ではなく、ソルベンシーに重大な影響を与えるには至らない、と考えられているようである。もちろん、今後さらなるドラスチックな市場の動き等が見られる場合には、会社によっては懸念が発生してくる可能性も否定できないもの、と考えられる。
2|会社の格付けへの影響
1|のような英国国債の格付けが引き下げられてきている状況下で、保険会社の格付けも引き下げられる可能性も出てくる。
短期的な市場のボラティリティによる資産価格の下落等による自己資本比率の低下については、格付けに直結するものではないと考えられるが、英国の位置付けの低下や英国の保険会社の事業を巡る環境の悪化等の英国における資産の長期的な下落要因に基づく自己資本比率の低下については、格付けの引き下げ理由になっていくものと思われる。
3|販売への影響
1|の状況を踏まえて、英国の国内景気の低迷も想定されることになることから、当然に保険会社の英国内での販売にもマイナスの影響を与えることになる。さらには、次に述べるパスポート権の取扱いによっては、英国外のEU加盟国での販売にもマイナスの影響を与えることになる。
この結果として、中長期的には、保険会社の業績に大きな影響が出てくる可能性も否定できないことになる。
3―英国の保険会社への影響-パスポート権喪失による影響-