『ベスト長期目標賞』の4業種について、2050年目標を概観した。経営環境の構造的変化を見据え、業種特性に応じて生き残りや競争力強化のための超長期戦略を構築する中で、リスク・チャンスの両面からCO2排出削減目標が設定されていることが分かった。ここで、グローバルビジネス展開を背景に、"脱カーボン戦略"において業種を超えて共通する特徴を抽出すると、以下のとおりである。
(1)昨年12月のCOP21で地球温暖化抑止をめざす新たな国際協力の枠組み「パリ協定」が採択され、日本は2030年に2013年比GHG排出量を26%削減することを約束した。これは低炭素社会に向け世界が動き出したことを意味し、それを超えて"2050年の自社のめざすべき姿"を明確にした。
(2)削減すべきCO2排出量の単位はほとんどが総量であり、原単位は少ない。
(3)CO2削減目標の対象範囲はグローバルの自社グループであり、さらに、業種特性により具体的な対策は異なるものの、製品ライフサイクルないしバリューチェーンの全体となっている。
(4)そのめざすべき姿から逆算の方程式である「バックキャスティング手法」により、2020年頃のマイルストーンである「中期環境計画」も明示的に策定・公表している。
(5)パリ協定は平均気温上昇を産業革命以前から「2℃未満」に抑えることをめざす。それによる今後の規制強化は業種特性に応じたリスクであるが、同時にチャンスともなることを理解している。また、持続可能な地球環境の形成が健全なビジネスの場の確保であることも認識している。
(6)持続可能な地球環境とは、気候変動の抑制だけでなく、資源循環や生物多様性保全、水資源確保とも相互に関連していることから、各社独自の包括的な長期環境ビジョンを設定している。
(7)CO2排出量削減の技術的対応として、従来型の「省エネ」に加え、再生可能エネルギーのより積極的な活用を図る。再生可能エネルギーの不安定さを克服する蓄電池の性能向上が背景にある。
これまで見てきたように超長期の"脱カーボン戦略"は製造業が先行しているが、既に金融業を含めて非製造業でも検討されている。今後、先進事例を参考にしつつ、企業価値の向上促進と毀損防止にむけて、自社の事業特性に対応する2050年を見据えたCO2排出量削減の長期目標の設定が日本企業に拡がることを期待したい。