家計調査14年9月~個人消費の持ち直しは依然として緩慢

2014年10月31日

(斎藤 太郎) 日本経済

■見出し

・実質消費支出は減少幅が再拡大
・個人消費の持ち直しは引き続き緩慢なものに

■要旨

総務省が10月31日に公表した家計調査によると、14年9月の実質消費支出は前年比▲5.6%となった。減少幅は8月の同▲4.7%から拡大し、事前の市場予想(QUICK集計:前年比▲4.2%、当社予想は同▲5.1%)を下回る結果となった。前月比では1.5%と3ヵ月ぶりに増加した。実質消費水準指数(除く住居等、季節調整値)は前月比0.2%(8月:同2.8%)と2ヵ月連続で上昇したが、持ち直しのペースは極めて緩やかなものにとどまっており、駆け込み需要が本格化する前の水準を依然として大きく下回っている。
10月28日に経済産業省から公表された商業販売統計によると、14年9月の小売業販売額は前年比2.3%(8月:同1.2%)と3ヵ月連続で増加し、前月から伸びを高めた。季節調整済指数でも前月比2.7%と8月の同1.9%に続き高い伸びとなった。家計調査に比べると商業販売統計の小売販売額は堅調に推移しているが、同統計の販売額は名目ベースとなっており、消費税分も含まれていることには注意が必要だ。物価上昇分を考慮した実質ベースの販売額を試算すると前年比でマイナスが続いており、季節調整済の指数水準も依然として駆け込み需要発生前の水準を大きく下回っている。
なお、家計調査(勤労者世帯)における実収入(名目)は14年3月以降、前年比でマイナスを続けており(9月は前年比▲2.3%)、毎月勤労統計の一人当たり賃金が前年比でプラスを続ける毎月勤労統計とは異なる動きとなっている。もちろん、両統計の概念が異なることから単純な比較はできないが、サンプルの問題で前年に比べ収入の低い世帯が多く、このことが家計調査の消費支出の下振れにつながっている可能性があることは念頭に置いておく必要があるだろう。

9月の消費関連統計は、駆け込み需要の反動の影響が和らぎつつあるなか持ち直しているものの、そのペースが引き続き緩慢であることを示すものとなった。この背景には、台風や豪雨などの悪天候によって外出が控えられたこともあるが、それ以上に大きいのは消費税率引き上げに伴う物価上昇によって実質所得が大きく低下していることだ。
先行きについては、企業業績の改善を背景に冬のボーナスも増加することが見込まれるものの、所定内給与が前年比0%台前半の低い伸びにとどまっていること、景気減速に伴い所定外給与の伸びが鈍化傾向にあることから、名目賃金の伸びが加速することは期待できない。一方、原油価格下落に伴う消費者物価上昇率の鈍化が実質所得の押し上げ要因として働く。このため、個人消費は持ち直しの動きを続けることが見込まれるが、そのペースは当面緩やかなものにとどまる可能性が高い。

経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎(さいとう たろう)

研究領域:経済

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴

・ 1992年:日本生命保険相互会社
・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
・ 2019年8月より現職

・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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