生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中(きむ みょんじゅん)
研究領域:社会保障制度
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
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「ワーク・ワイフ・バランス」と言うと、まるで「ワーク・ライフ・バランス」のダジャレのように聞こえるかも知れないが、今回は「ワーク・ワイフ・バランス」についてお話を進めさせていただきたい。「ワーク・ワイフ・バランス」とは、英語のWork Wife Balanceを筆者が日本語のカタカナで表記したものであり、どの辞書を探しても意味は出ない。本稿では日本の男性の労働時間と関連して 「ワーク・ワイフ・バランス」の実現を話したい。
2012年における日本の総実労働時間(パートタイムを含む)は1,765時間で、1996年の1,919時間から減少しているが、就業形態別に見た一般労働者の総実労働時間は2012年が2,030時間で1996年の2,050時間と大きく変わっていない。
さらに、厚生労働省の毎月勤労統計調査が把握している総実労働時間は、企業が賃金支払いのために把握している所定内労働時間1と所定外労働時間2の合計を基準にしており、サービス残業や個々の労働者の会社以外における就業時間(副業など)は含まれていない。一般労働者の中には正規職の男性労働者が多いことを考えると、男性正規職の労働時間は以前と大きく変わらず、まだ長時間労働が蔓延していることが伺える。
このような長時間労働が続くと、家事や育児への参加時間が少なくなり、安倍政権が力を入れている成長戦略としての「女性活躍」や、それに伴う「ワーク・ライフ・バランス」政策を実現することはなかなか難しい。OECDが2014年に発表した調査結果3によると、日本の15歳から64歳の女性は1日に家事や育児等、給料が払われていない仕事(unpaid work)に299分を使用していることに比べて、日本の男性は62分しか使用していないことが明らかになった。これはOECDの男性平均139分を大きく下回る数値である。
男性の長時間労働は男性の家事や育児への参加時間だけではなく、妻や家族と会話する時間や過ごす時間を減らす要因にもなっている。就職情報サイト「マイナビ」が2013年に実施した調査結果によると、回答者の約6割が夫婦の平日1日の平均会話時間が「1時間未満」であると答えている。さらに、「15分未満」と答えた回答者の割合も25%にも達した。その中には妻と一日に「おはよう」、「おやすみ」、「ただいま」くらいしか話さない人がいるかも知れない。
以上のことを考えると、政府が本腰を入れている「女性活躍」政策が中途半端になってしまう可能性も少なくない。従って、男性の長時間労働を減らすためには、夫婦が一緒に過ごす時間を増やすことが大事である。つまり、仕事の時間と妻といる時間の調和とも言える「ワーク・ワイフ・バランス」が日本社会に定着されるべきである。
日本が一時期目指していたオランダの1.5モデル4もこの「ワーク・ワイフ・バランス」が基本になるだろう。今後「ワーク・ワイフ・バランス」を充実させることこそが「ワーク・ライフ・バランス」を実現する近道になるに違いない。
生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
研究領域:社会保障制度
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)