土堤内 昭雄()
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■はじめに
日本は超高齢社会を迎えている。それは長寿社会、すなわち長生きできる時代の到来を意味する。平成24年の日本人の平均寿命は、男性79.94年、女性86.41年。これだけ寿命が長くなると、退職後に過ごす高齢期を単なる「余生」などとは言っていられない。長寿時代に幸せな人生を送るためには、定年後に訪れる10万時間を超える生活をどのように過ごすのかが極めて重要になっているのである。
内閣府の「平成20年版国民生活白書」には、日米を比較した「年齢による幸福度の推移」グラフが掲載されている。それによると、アメリカでは高齢期に幸福度が大きく上昇する一方で、日本では加齢と共に幸福度が下がっているのだ。その理由は年金をはじめとした社会保障制度に対する不安なのか、「一人暮らし」が増えることによる社会的孤立によるものなのか、そこにはさまざまな要因が考えられよう。いずれにしても、日本には高齢化により新たな社会的課題が生じ、われわれは長寿化の結果、これまであまり想定していなかった人生のリスクを抱えるようになっているのである。
そのひとつは介護と要介護のリスクである。長男・長女時代には一組の夫婦に4人の老親がいて、いずれかの介護が生じる可能性が高い。そのため介護離職をせざるを得ない中高年層もいる。一方、自分が最期まで健康であるとは限らず、長生きは同時に自らの要介護の可能性にもつながっている。
また、長寿を全うするために安定した経済基盤が必要だが、多くの人にとってその中心となる年金を最期までどのように補うかも大きな課題だ。資産の取り崩しで賄うためには長生きすればするほど資産不足のリスクが高まるからだ。また、若者の非婚や晩婚化、非正規雇用の増加などにより子どもの世帯分離が遅れ、その扶養期間が長期化して、老後に想定以上の資金が必要になることもある。
長寿になると死別や離別を経験する高齢者も多く、「一人暮らし」で長く生きなければならない人も増えている。生涯独身で過ごす生涯未婚男性も既に2割を超えた。たとえ健康面や経済面で恵まれたとしても、地域や家庭での居場所を失い、社会から孤立するリスクもあるだろう。
このように長寿がもたらす長い高齢期には、介護・要介護リスク、経済リスク、孤立リスクなどが新たに発生し、それらに対するリスクマネジメントが必要になっている。本レポートでは、ようやく実現した長寿社会を幸せに生きるために、定年後の「幸せのレシピ」づくりに向けた長寿時代のライフマネジメントについて考えてみたい。
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