金融研究部 主席研究員 チーフ株式ストラテジスト
井出 真吾(いで しんご)
研究領域:医療・介護・ヘルスケア
研究・専門分野
株式市場・株式投資・マクロ経済・資産形成
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■要約
株式投資は売買のタイミングが難しい。しかし、数年タームで長期投資する場合はタイミングの影響が小さくなる。NISA(ニーサ=少額投資非課税制度)のスタートを年明けに控え、初心者や多忙な投資家はどうすればよいか。データを検証すると、ある有力な手段がみえた。
■売り買いのタイミングが分かれば誰も苦労しない
「株は安いときに買って高いときに売るのが鉄則だ」と言われたら、「そんなことは分かっている。問題はいつ安くていつ高いか分からないことだ。」と言いたくなるだろう。特に株式投資の経験が浅い人はこう思うのではないか。そう、いつ買っていつ売ればよいか分かれば誰も苦労しない。
NISAのスタートを年明けに控え、これを機に株式投資を始めようと考える人も少なくないようだが、NISA口座で株式などを買うのは新年早々でなくても構わない。2014年分の購入枠(100万円)を利用するには2014年12月末までに買えばよい。では、いつ買うか。理屈を言えば「今が安値圏だ」と思うタイミングで買えばいい。
とはいうものの、冒頭で述べたように多くの人にとって将来の株価を見通すことは困難だ。アベノミクスで株価は1年前と比べて大きく上昇した。市場関係者の間では2014年も更なる値上がりを見込む声が多い。確かに、2014年度も企業業績が改善すればもう一段の株価上昇は正当化される。一本調子で上がるなら早く買った方が儲けは大きくなるが、株価の動きはそんなに単純ではない。
■長期投資ならタイミングの影響は小さい
図は2000年以降の毎月初めに日経平均に投資して5年目の年末まで保有し続けた場合の収益率を示したものだ。いわば「2000年からNISA制度があったなら、いつ買えばどれだけ儲かったか(損したか)」を表している。何月に買うのがベストだったかは年によって異なるが、特徴的なのは2008年以外は1月~12月のいずれもプラスかマイナスで一貫している点だろう。たとえば2002、2009、2001、2003年は全ての月がプラス、2006年や2007年は全ての月がマイナスだ。乱暴に言えば、「儲かる年は何月に買っても儲かったし、買うタイミングを図ったところで損する年は結局は損をした」ことを意味している。
さらに、10年分を平均すると購入月が違っても収益率は大差ない。つまり実際のNISAと同じように5年程度の保有を10回繰り返せば、いつ買っても同じくらい儲かった(損した)ことになる。ちなみに収益率の平均は7.2%であった。ただし、ここでは配当金を考慮しない日経平均で計算しているため、配当を含む実際の収益率は8%以上と想定される。
■長期投資に適した方法とは
この結果は、投資タイミングを判断するのが難しい人だけでなく、仕事や家事が忙しくて情報収集や売買注文の時間を確保できない人にも朗報だろう。なぜなら、積立制度を利用して日経平均連動型の投資信託を毎月一定額ずつ自動的に購入すれば、年率8%程度の運用成績を実現できたからだ。手数料を仮に1%としても7%が手元に残る。
この方法は「ドルコスト平均法」と呼ばれ、その有用性は以前から指摘されてきた。もし株価が一本調子で上がると考えるならドルコスト平均法を採用する理由は無い。ところが、数年タームでは上昇相場のときでも、短期的な上げ下げを繰り返しながら上がっていくのが株価というものだ。
投資タイミングや個別企業をうまく選べば元本を数倍に増やせる可能性がある点も株式投資の魅力だろう。しかし、その手間や結果に一喜一憂する精神的ストレスが軽く済むうえ、最長5年というNISAの非課税期間を活かせる積立投資は、特に初心者や多忙な投資家にとって有力な手段となろう。
金融研究部 主席研究員 チーフ株式ストラテジスト
研究領域:医療・介護・ヘルスケア
研究・専門分野
株式市場・株式投資・マクロ経済・資産形成
【職歴】
1993年 日本生命保険相互会社入社
1999年 (株)ニッセイ基礎研究所へ
2023年より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会認定アナリスト