コラム

「幸福」と「健康」と「お金」の話 - OECD「より良い暮らし指標」で読み解く現代社会

2013年06月24日

(土堤内 昭雄)

毎年5月に経済協力開発機構(OECD)が、国民生活の幸福度を評価した「より良い暮らし指標」(Better Life Index)を公表する。今年の総合評価はオーストラリア1位、スウェーデン2位、カナダ3位で、日本は昨年と同じ21位だった。評価は住宅、収入、雇用、コミュニティ、教育、環境、ガバナンス、健康、生活満足度、安全、ワークライフバランスの11分野の23指標で行われる。

日本の「幸福度」の分野別ランキングをみると、ベスト3は「安全」(1位)、「教育」(2位)、「収入」(6位)、ワースト3は「ワークライフバランス」(34位)、「健康」(29位)、「生活満足度」(27位)だ。特に気になる点は、「健康」分野の指標である「自己申告健康度」で、健康状態を「よい」または「非常によい」と答えた成人の割合が30%と、OECD平均値の69%を大きく下回り、最下位だったことだ。

日本は「平均寿命」が男女平均83歳と最も高いにもかかわらず、「自己申告健康度」が最も低い。今後は、単に平均寿命の伸びを目指すのではなく、健康寿命の伸びや延命治療・ターミナルケアのあり方など高齢期の生活の質(QOL)の改善を図り、主観的にも「健康」を実感できる社会づくりが重要だろう。

「幸福」と「お金」の関係についてOECDレポートには、『お金で幸福を買うことはできないが、お金はより高い生活水準を獲得する重要な手段』と記されている。日本は「収入」分野において6位とかなり上位であるが、既に経済成長が一定水準を超えた成熟社会に見られる「幸福のパラドクス」が生じており、「収入」の高さが必ずしも「幸福」の向上には繋がっていない。

また、「健康」と「お金」の関係においても、経済成長による公衆衛生の改善や医療水準の向上が死亡率を低減し、平均寿命の伸長を可能にするが、主観的健康度との相関関係は薄れる。何故なら社会指標としての「健康」は、社会の成熟とともに物的・経済的要因から心理社会的要因が支配的になるからである。経済成長至上を志向する競争社会は、人々の信頼関係や社会的つながりが薄れ、人が攻撃的になるなどストレス社会の一面も強いと言われており、心身の健康に大きな負担をかけているのだ。

では、本当に国民の「幸福」や「健康」の向上をもたらすにはどうすればよいのだろう。成熟社会において「幸福」や「健康」は、絶対所得よりも相対所得に大きな影響を受ける。そのため所得水準と同時にその配分が重要な要素になるのだ。先般の国民総所得(GNI)の向上を掲げた成長戦略については、税や社会保障による再分配機能の一層の充実が重要だが、今後は社会の成熟化に即応した、過度な再分配を必要としない、本質的に格差の小さな社会の実現を目指すことが必要ではないだろうか。




 
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