コラム

韓国は○○パパラッチの天国 ? ―長期的な啓蒙運動の推進で社会問題の解決を―

2013年03月25日

(金 明中) 社会保障全般・財源

韓国に○○パパラッチが溢れている。一般にパパラッチとは、有名人を追いかけ、彼らの私生活を撮影したり記事にして、生計を立てている人々をさす俗称として知られている。しかしながら韓国における○○パパラッチは、有名人のみを対象にしているのではなく、様々な違法行為を行っているすべての人を対象にしている。韓国では、社会の様々な違法行為を解決するために、政府や地方自治体は違法行為を監視・申告した人に対して褒賞金を支給しているが、これにより生計を立てている人々を○○パパラッチと呼んでいる。

現在、韓国では、カパラッチ(交通違反監視員、カは英語のcar)、学パラッチ(違法塾監視員)、税パラッチ(脱税監視員)、ソパラッチ(牛肉産地虚偽表示監視員、「ソ」は韓国語で牛という意味)、酒パラッチ(飲酒運転監視員)など2012年現在、政府や地方自治体の褒賞金制度(以下、パパラッチ制度)は971種類が実施されており、政府の予算だけで107億ウォン(約12.8億円)に至っている。

韓国で最初に導入されたパパラッチ制度は「カパラッチ」である。韓国政府は2002年の日韓ワールドカップを控え、交通違反を減らし健全な交通文化を定着させるため2001年3月にカパラッチを導入した。カパラッチの正式名称は、「交通違反申告褒賞金支給制度」で、交通規則を守らない車両を写真に撮って提出すると、褒賞金が支給される仕組みである。カパラッチの実施により交通違反が減少(2001年の1,703万件から2002年には1,067万件に)する効果もあったが、同時に労働力のパパラッチ化、褒賞金の急増による財政的負担の増加、世論の反発などが原因で、2002年にカパラッチは廃止となった。しかしながら、それ以後再び交通違反が増加してきたので、韓国政府は交通違反を減らし、交通事故による死亡者数を半減させるという目的で、2009年から「カパラッチ」を再実施している。

また、最近人気があるパパラッチ制度は「学パラッチ」である。学パラッチは、韓国の厳しい受験事情や教育熱を反映している制度であり、私教育を提供する民間の塾などの違法行為を監視・申告することにより褒賞金が支給される。学パラッチは簡単にお金が儲けられる仕事として脚光を浴びており、学パラッチを養成する養成所が全国に20ヶ所を超えているという。

現在韓国では長引く不況の中で、就職難に陥っている人々が多く、○○パパラッチとして生計を立てることを希望する人々が増加する一方である。パパラッチ制度は、政府や地方自治体の人員不足などが原因で直接的に管理・監視することが難しい分野の業務を民間に任せ、社会問題を解決しようとする試みであると言える。確かに、○○パパラッチ制度の実施により交通違反や違法塾が減るなど一定の効果を挙げてはいるが、個人のプライバシーの侵害、社会の不信感の拡大、パパラッチの過度の量産という副作用をもたらしていることも確かである。

監視や密告で社会の問題を解決する方法は、制度が実施されている間にはある程度効果が現れるが、制度がなくなったり、褒賞金の金額が縮小すると、問題が再発する可能性が高い。問題を短期的に解決しようとする助成金や褒賞金制度だけに頼らずに、国民の教養や意識水準を高めるための長期的な啓蒙運動を推進することこそが、よりよい社会を作るのに貢献するだろう。





 
  日本円換算:韓国100ウォン=日本8.33円、 2013年3月18日為替レート適用

生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中(きむ みょんじゅん)

研究領域:社会保障制度

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴

プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
       東アジア経済経営学会理事
・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)

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