2012年09月25日
少子高齢化の不動産市場への影響
既存ビジネス再構築で生まれるフロンティア(別図参照)
5つのビジネス・コンセプト
(1)「住まい」の総合サービサー
老若男女から外国人まで、日本で暮らす生活者をターゲットにした住まいに関する一元的なサービスで、一部不動産大手が取り組んでいる「ワンストップ化」の進化形である。現在も国民の持ち家志向は根強いが、新築分譲偏重のビジネスモデルだけでは市場の成長は難しい。中古住宅のリノベーションや賃貸マンション居住も普及が進んできた。建てる・買う・売る・借りる・貸す・改修する・建替える・住み替える・相続する・投資する、など「住まい」に関する多様な選択肢と専門的な助言機能を店舗やインターネット上に集約することが第一歩である。
(2)企業のCRE戦略アドバイザー
「土地持ち企業」の不動産活用戦略に加え、企業が不動産を借りる場合のCRE戦略にも積極的に関与する。CRE戦略の目的は、企業価値向上の観点から不動産の最適な選択を行うことであり、企業が所有する不動産も賃借する不動産も、どちらも事業を行うために必要な施設であることに変わりはない。不動産に対する企業の情報収集力や分析力は高まっており、賃借への意識や行動も大きく変化している。東京のオフィスセクターがオペレーショナル・アセット化する中、不動産会社はリーシング力やグリップ力を高めるため、賃貸営業やテナント専用部サービスのあり方などを見直し、提案力の向上や管理の透明化を進める必要がある。
(3)新ビジネス・新商品のインキュベーター
起業や商品開発を積極的に支援して、新たな不動産需要やビジネスの種を生み出す。たとえば、内外の起業家や日本進出企業、新商品を開発する企業やプランナーに、所有するビルやマンションの空室や未利用地、情報インフラを有利な条件で提供する。このとき、ソーシャルビジネスや社会起業家も対象とする。もともと不動産ビジネスは、街づくりや緑化・環境対策などを通じて地域社会に貢献するビジネスでもあるうえ、最近では子育て支援やコミュニティづくり、防災対策が付加価値的サービスとなり、ソーシャルビジネスとの親和性が強まっているためだ。
(4)エネルギー利用のスマートマネージャー
経済・社会の節電・省エネ志向が強まる中、商業・業務用ビル、住宅から都市まで経済活動や生活の基盤を提供する不動産ビジネスは、開発物件から既存ストックまで幅広く省エネ・創エネ・蓄エネを推進することができ、成長が期待される「環境エネルギー産業」の一角を担うにふさわしい。すでに、オフィスビルや住宅におけるエネルギー使用の「見える化」、エネルギー管理システムの導入、さらにはネット・ゼロ・エネルギー建築に向けた意欲的な試みが加速度的に進んでいる。特に、地球温暖化ガス排出量で業務部門と家庭部門が3分の2近くを占め、オフィスビルや商業施設、住宅の省エネ化が都市全体のスマート化に直結する東京は、このビジネスの主戦場となろう。また、エネルギーや自動車、家電、情報通信など異業種との連携も不可欠である。
(5)不動産長期運用のマルチマネージャー
不動産会社は、開発から管理、売買、建替え・再開発まで長期にわたる不動産事業サイクルのあらゆる局面に対応できる専門家として、J-REITや私募ファンド、私募REITなどの運用をより洗練して資産規模や収益機会の拡大を目指すべきだ。特にJ-REITは、国債や株式より高くて安定したインカム収入が長期間にわたって期待できることから、年金だけでは足りない老後の生活資金を穴埋めするのに適した個人向け金融商品である。また、エネルギー事業や交通基盤など長期的な運用を求められるインフラファンドへも運用対象を拡大したい。投資資金はボーダレスに動くことから"良い不動産金融商品"は国内の少子高齢化の影響を受けにくい、という利点を活かせるよう、運用の洗練と資産規模の拡大によって内外の投資家の信任を高めることが重要だ。