コラム

不純な動機でバリアフリーについて考える

2012年02月10日

(高岡 和佳子) リスク管理

2年ほど前の話であるが、キャスターバックを手に成田空港へ向かう途中、主要ターミナル駅で自宅沿線の路線から別の鉄道会社が運営する路線に乗り換えたことがある。

キャスターバックは自称非力な私にも重い荷物を運ぶことを可能とする便利なものであるが、階段等の段差には太刀打ちできないという弱点がある。事前に両鉄道会社のホームページで確認したところ、いずれもバリアフリー対応が進んでおり、改札口からホームまでエレベーターのみで移動できるとのことだった。ところが、自宅沿線の路線を主要ターミナル駅で降車し、唯一のバリアフリー対応済みの改札を出てすぐに絶望に打ちひしがれた。比較的近くに別の鉄道会社の改札が2箇所あるものの、いずれもバリアフリー対応されていなかったのだ。本当は非力でないことが幸いして、乗り遅れずに済んだものの、20kg以上ある荷物を抱えての階段昇降に閉口した。そして、本当に階段昇降が困難な人が乗り換えるには相当遠回りする必要があることに気づきはっとすると同時に、使い慣れた場所なのに今まで思いもよらなかったことを恥かしく思った。

バリアフリー新法が施行されて5年以上経過する。同法第一条には「(前略)公共交通機関の旅客施設及び車両等、道路、路外駐車場、公園施設並びに建築物の構造及び設備を改善するための措置、一定の地区における旅客施設、建築物等及びこれらの間の経路を構成する道路、駅前広場、通路その他の施設の一体的な整備を推進するための措置その他の措置を講ずることにより、高齢者、障害者等の移動上及び施設の利用上の利便性及び安全性の向上の促進を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的とする」とある。多少遠回りでも差しさわりなく移動出来れば十分との考えもあろうが、急速な高齢化が進展する中、少なくとも主要ターミナル駅はどうにかならないものかと考える。

私事であるが、たまに簡易なシステムを構築する機会がある。各パーツが正しく作りこまれていても、それらの連携に問題があるなどを理由に、入力値に対し想定される結果が得られないことがある。そのため、各パーツに着目したテスト、それらの連携に着目したテスト、更にはシステム全体を通して求められる機能が備わっているかのテストも実施している。綿密なテストを実施しているように感じるかもしれないが、システム構築を本業とする方は、より多面的かつ高度なテストを行っているはずである。私が行っている一連のテストは、たまに簡易なシステムを構築する程度の人間でも実施する基本中の基本である。

上述の話は、各事業体が正しく対応していても、システム全体を通して求められる機能が備わっていない(法の目的を必ずしも達成していない)事例に思えて仕方がない。主要ターミナル駅の多くで工事が行われているように感じるが、今こそ各機能の連携はどうか、システム全体を通して求められる機能が備わっているかを検証し、高齢者等の移動上及び施設の利用上の利便性向上を図っていただきたいと思う。
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