コラム

恐竜の絶滅から学ぶ

2011年10月07日

(新美 隆宏) 成長戦略・地方創生

子どもと一緒に、国立科学博物館で開催されていた恐竜博2011を見学した。ティラノサウルスやトリケラトプスの最新研究に基づいた全身復元骨格などが展示されており、多くの子ども達が目を輝かせていた。最新の研究によると、恐竜の化石に含まれるメラニン色素を分析して、オリジナルの色を判別することに成功したそうであり、これを踏まえた映像なども展示されていた。

地球上に君臨していた恐竜の絶滅原因の研究も興味深い。諸説ある中では、メキシコのユカタン半島への隕石の衝突を原因とする説が有力のようである。衝突により大気中に浮遊した粉塵や二酸化炭素、森林火災による煤煙が地表への太陽光を遮り、地上や海中の生態系が破壊されたためとの説である。この説では、食物連鎖の底辺である植物の大幅な減少から、草食恐竜、肉食恐竜の餓死との連鎖を経て、衝突による直接的な影響を免れた恐竜を含めて絶滅したという。この一方で、大量の食料を必要としない小型の哺乳類が生き残ったと考えられている。自然災害を原因とするエネルギー不足により、大量のエネルギーを必要とする生物が絶滅し、少ないエネルギーで済む生物が生き延びた。

当研究所では、ニッセイ景況アンケートの集計・分析を定期的に行なっている。今回(2011年8月)のアンケートでは「東日本大震災による企業活動への影響」を調査した1。震災直後はサプライチェーン寸断による部品・商品不足の影響が懸念されていたものの、時間が経過するにつれて東北・関東の電力不足、更には全国的な電力不足へと、東日本大震災による影響は変化していった。運転停止中の原子力発電所の運転再開の見通しが立たない現状では、今冬以降も電力不足への対応が必要であろう。自然災害を原因とするエネルギー不足に直面しているのである。

日本はGDP世界第3位の経済大国であり、世界経済に及ぼす影響は大きい。震災からの早期の復旧が望まれており、恐竜のようにエネルギー不足の影響を甘んじて受ける訳にはいかない。直面している電力不足に対して、省電力、再生可能エネルギーによる発電、蓄電などの電力関連の技術を革新することにより、効率的にエネルギーを活用する体質に変化する必要がある。新興国を中心とした人口増加が続き、化石燃料の埋蔵量に限りがある状況を考えると、これらの技術は我々だけでなく、近未来に世界中で必要とされる技術であろう。我々には太古に生きた生物を分析し、その生態や絶滅の原因を紐解く英知がある。今回の震災を契機として、この英知を近い将来に直面するエネルギー不足への事前の備えに活かして欲しい。
 

総合政策研究部   上席研究員

新美 隆宏(にいみ たかひろ)

研究領域:

研究・専門分野
金融・経済政策、企業年金、資産運用・リスク管理

経歴

【職歴】
 1991年 日本生命保険相互会社入社
 1991年 ニッセイ基礎研究所
 1998年 日本生命 資金証券部、運用リスク管理室
 2006年 ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)
 2011年 ニッセイ基礎研究所
 2015年 日本生命 特別勘定運用部、団体年金部
 2025年 ニッセイ基礎研究所(現職)

【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 認定アナリスト

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