コラム

先手を打つまちづくり―国有地処分における二段階一般競争入札方式に期待

2011年09月01日

(塩澤 誠一郎) 土地・住宅

横浜市みなとみらい21地区における未利用国有地の売却において、二段階一般競争入札方式が全国で初めて導入される。

この方式は、まちづくりに配慮した土地利用を行いつつ、民間の企画力・知見を具体的な土地利用に反映させ、資産価値の向上や地域経済の活性化等の効果を実現することを目的に2008年に制度化されたものである。

二段階とは、第一段階で国有地の利用に関する企画提案を募集し、予め設定した開発条件に適合しているかどうか審査を行い、第二段階で、審査通過者による競争入札により売却先を決定するものである。

このように、国有地の売却により民間企業による開発を呼び込むとともに、売却する公共側が予め開発条件を設定して、まちづくりに貢献する開発を誘導することが本方式導入のねらいであることが分かる。

開発条件の設定は財務省と当該自治体との協議により行われるということであり、この中で自治体や地域住民等関係者のまちづくりに関する考えを、開発条件に反映させることができる。

従来の価格のみで競われる一般競争入札方式では、地域のニーズを企画段階で開発に反映させることは難しく、通常は売却後に自治体がお願いベースで民間の開発計画に注文をつけるのがせいぜいであり、地域にそぐわない開発や意図しない土地利用が元国有地においてなされる可能性が残される。

そうしたリスクを回避する意味でもこの方式の導入は大きな意味があると言えよう。

財務省は今回の導入効果をみて、他の国有地での導入を検討していくということであるが、未利用国有地を抱える多くの自治体は、この方式による国有地の民間活用により、まちづくりを推進する起爆剤にしようと考えるのではないか。

ただし、対象となる国有地の要件が大都市中心部に限られており、需要が高く、民間事業者による様々な企画提案が期待される土地となっている。今後自治体のニーズを把握した上で、全国で活用できるような制度に作りかえることを検討してもいいのではないか。

一方、自治体にとって重要なことは、まちづくりに対する考えをしっかりと持つことである。みなとみらい21地区は既に1980年代からマスタープランに基づくまちづくりが着実に進められており、民間による個々の開発もまちづくりと一体となって行われ、まち全体の魅力を高めてきたのである。

開発条件を設定する段階で初めてまちづくりを考えるのでは、既に後手と言えよう。先手を打つには、確固たるまちづくりの考え方をマスタープランとして事前に明示しておくことが必要である。

そうすることで民間事業者にとっても「後出しじゃんけんリスク」が減り、企画提案の視点もより明確になるのである。売却後の官民パートナーシップの円滑化にも寄与することが期待できる。

このような先手を打つまちづくりにより、二段階一般競争入札方式はより高い効果を発揮するであろう。

社会研究部   都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任

塩澤 誠一郎(しおざわ せいいちろう)

研究領域:不動産

研究・専門分野
都市・地域計画、土地・住宅政策、文化施設開発

経歴

【職歴】
 1994年 (株)住宅・都市問題研究所入社
 2004年 ニッセイ基礎研究所
 2020年より現職
 ・技術士(建設部門、都市及び地方計画)

【加入団体等】
 ・我孫子市都市計画審議会委員
 ・日本建築学会
 ・日本都市計画学会

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