2011年06月08日
(日本大学経済学部教授 小巻 泰之)
(矢嶋 康次)
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本論の目的は、消費者物価指数(CPI)の基準改定に生じる新旧指数の乖離について、金融政策への影響を検証することにある。2005年基準への移行直後の金融市場での混乱は記憶に新しい。金融政策などの意思決定は旧基準のデータで行われるものの、新旧指数で大きく乖離が生じたからである。
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本論では、消費者物価指数(CPI)及び卸売物価指数(WPI、2002年11月以降はCGPI、以後WPI(CGPI))の基準年次の改定の中で、新旧基準の指数が存在する重複期間における金融政策の判断について、リアルタイム・データを基に検討する。重複期間とは基準改定の切り替え前の期間であり、CPIで1年半程度、WPI(CGPI)で3年程度ある。重複期間の問題点は、金融政策などの意思決定は旧基準のデータで実施されることにあり、偶然とはいえ、金融政策上の重要な決定を行っている時期と重なっていることがわかる。バブル末期における初めての金融緩和(91年7月)、市場短期金利重視型への移行(95年3月)、ゼロ金利政策の解除(2000年8月)、量的緩和政策の導入(2001年3月)、量的緩和政策の解除(2006年3月)などである。
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重複期間における新旧指数の乖離は統計的に有意にゼロではないとはいえ、その乖離幅は物価変動全体からみれば大きなものではなく、全ての重複期間で金融政策に影響を与えたわけではない。しかしながら、以下の政策判断では、新旧基準のCPIの乖離が大きな影響を与えていたことがうかがえる。
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もっとも、日銀においては物価指数の問題点は十分に理解され、またCPIのデータ改定(重複期間の存在やその後の改定動向)にも注意を払い、CPIの問題点に関する研究が実施されてきたことも事実である。また、物価指数でいえばCPIの変動のみで金融政策を決定しているわけでもない。
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しかし、一般的な経済主体にとっては、新旧基準への区別は問題とされず、あくまでも公表された数値で意思決定を行っているとみられる。2011年6月分のCPIから2010年基準への移行(2011年8月に切替え)される予定であるが、まさに現在が2005年基準と2010年基準との重複期間である。この点においては、物価指数の重複期間における金融政策はそれ以外の時期とは異なったアナウンスが必要となってくるのではなかろうか。