コラム

電力需給対策と日本企業の力

2011年04月06日

(矢嶋 康次) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

夏場の東京電力管内は電力の逼迫が起こる。そのため政府は電力需給対策案を策定し、工場などの大口事業者に対して、夏のピーク時の電力使用量を平年比で25~30%制限、小口事業者には20%、家庭には15%を目標に節電を促すことを検討している。

電力供給が需要に足らない以上、消費者としては我慢するしかない。まして国家的な危機でありそれに国民が協力することは当然だともいえる。

しかし、今回のことで新規の原発建設には大きくブレーキがかかることになり、既存の原発にも見直しの動きが出ることは必至だ。東京電力の電源構成比を見ると原子力は全体の30%も占めている(下図)。将来は新しい風力などの代替エネルギーで穴埋めできるとしてもまだまだ先の話だ。現実的には数年、この状況は改善されないのかと考えてしまう。
そうなると日本企業の生産力に制約が課されることになる。新興国などではインフラが十分に整備されていない一方で、生産が拡大を続けており、電力不足が恒常化している。3月に訪れたベトナムでは電力削減が政府から要請され企業は週一回程度の計画停電に応じていた。従来日本ではインフラが企業活動の制約になることは少なかったが、今回の電力不足は日本企業の力を落としてしまう残念な要因となってしまう。

もうひとつ気になるのが、長期化する東京電力圏内での電力不足、サプライチェーンの見直しで、企業がその他地域に生産拠点をシフトさせることだ。

国内なら(雇用が生産拠点の転換によってうまくシフトするかという心配はあるが)まあいいとしても、(TPPの実現性も低下していることもあり)製造業が海外シフトを急加速させるリスクは高まっているように思える。

今年の夏はみんなで我慢する以外に方法はない。しかし、この状況がいつまでも続く、続いてしまうだろうと考えれば、上記のような流れは起こってしまう。

今回の原発問題で原発に変わる新エネルギーの早期普及が国家的課題となった。ただ、エネルギー出力から見れば原発なしで日本のエネルギーが現状では成り立たないのも事実だ。どういう方向性に進むのかはかなり判断が分かれるし、決断も難しいことは十分に予想がつく。

しかし、日本、日本企業は今回の震災・原発事故によって「安心・安全」の看板が汚れてしまった。この上、日本のエネルギー政策の立ち上がりが遅いために、日本企業の力が損なうことはあってはならず、時間的な余裕はまったくないとも言える。ここでも政治に対して早期のグランドビジョンの提示が求められる。

総合政策研究部   常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任

矢嶋 康次(やじま やすひで)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融財政政策、日本経済 

経歴

・ 1992年 :日本生命保険相互会社
・ 1995年 :ニッセイ基礎研究所へ
・ 2021年から現職
・ 早稲田大学・政治経済学部(2004年度~2006年度・2008年度)、上智大学・経済学部(2006年度~2014年度)非常勤講師を兼務
・ 2015年 参議院予算委員会調査室 客員調査員

第54回 エコノミスト賞(毎日新聞社主催)受賞 『非伝統的金融政策の経済分析』

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