欧州経済見通し~ソブリン・リスクへの不安燻り、景気は力強さ欠く

2010年03月12日

(伊藤 さゆり) 欧州経済

  1. 前回予測公表(2009年12月11日付け)後のEUではギリシャの財政状況への不安が高じ、問題の一部を共有する南欧への伝播懸念が強まった。2月にはEU首脳レベルで協調行動の意志を確認、3月に入ってギリシャが公表した追加の財政再建策は一定の評価を得ており、リスク指標は高水準ながらピーク時に比べ改善、伝播懸念も後退している。
  2. ドイツの財務相が打ち出した欧州通貨基金構想に対するEU機構の高官や各国首脳・財務相の意欲には温度差があり、基本的設計も検討前の段階にある。仮に条約の改正を伴うものとするならば、創設までに必要な時間は膨大なものとなる。4~5月のギリシャ国債の償還問題の対応策とはなりえず、持続不可能な域内不均衡の再拡大を防止するため、財政の健全性維持と構造改革を促す枠組みの一つとして検討されるように思われる。
  3. 16日のECOFINでは、ギリシャの財政再建計画の支持、必要に応じて協調行動をとる方針が確認され、欧州通貨基金(EMF)構想、ギリシャの財政危機を増幅したとされるCDSに対する規制の検討なども声明に盛り込まれる可能性があろう。市場の関心が高い支援策については、協議は行なわれても具体的内容は公表されない可能性がある。
  4. ユーロ圏、EU全体としては景気回復基調が続いているが、想定通り、「でこぼこ道」を辿っている。IMFの支援を受けている中東欧の3カ国、ギリシャ、スペインなど緊縮財政を強化したユーロ圏周辺国は一段の落ち込みが予想される。イギリスも10~12月期はようやく前期比0.3%成長とプラス転化したが、バランス・シート調整圧力と景気対策効果の剥落で力強さを欠く展開となるだろう。成長率はユーロ圏が2010年0.6%、2011年1.2%、イギリスが2010年は0.5%、2011年は1.5%と予測する。2011年には主要国も財政健全化に舵を切ることが想定され、回復が続いても加速感を欠く要因となろう。
  5. 金融政策面では、欧州中央銀行(ECB)は3月の理事会で昨年12月に続く「非標準的手段」の巻き戻しを極めて緩やかなペースで進める方針を示した。イングランド銀行(BOE)は、2月に量的緩和の拡大停止・残高維持を決めた。5月に総選挙を控えた財政政策の先行き不透明感からしばらくは身動きがとりづらく、状況に応じて量的緩和を再開する選択肢を確保した状態を継続しそうだ。ECB、BOEとも利上げは2011年入り後、段階的に進めることになろう。

経済研究部   常務理事

伊藤 さゆり(いとう さゆり)

研究領域:経済

研究・専門分野
欧州の政策、国際経済・金融

経歴

・ 1987年 日本興業銀行入行
・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
・ 2023年7月から現職

・ 2011~2012年度 二松学舎大学非常勤講師
・ 2011~2013年度 獨協大学非常勤講師
・ 2015年度~ 早稲田大学商学学術院非常勤講師
・ 2017年度~ 日本EU学会理事
・ 2017年度~ 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
           「欧州政策パネル」メンバー
・ 2022年度~ Discuss Japan編集委員
・ 2023年11月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員

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