米大リーグの松井秀喜選手が、2009年ワールドシリーズでヤンキースの優勝に貢献し、日本人初のシリーズMVPに輝いたのが昨年11月。その余韻さめやらぬ中、翌月にエンゼルスへの電撃移籍が決まった。欧州サッカー界では、昨年6月にカカ選手、翌月にクリスティアーノ・ロナウド選手と大物スター選手が相次いでレアル・マドリードへの移籍を決めて、世界を驚かせた。一方、日本のプロ野球やJリーグにおいては、たまに大型トレードが見られるものの、基本的には当年度好調だった主力選手を残留させ、次年度にチームの形態を大きく変えることは少ないように見える。
米大リーグや欧州サッカーリーグでは、強豪チームがひしめく熾烈な競争の下で、各チームに強い危機感が醸成され、主力選手を入替えてでもチームを抜本的に活性化し、次年度のリーグ戦に臨むというカルチャーが定着しているのではないだろうか。それに比べると、日本のプロスポーツ界でのチーム編成は保守的で変化が少ないように見える。このようなプロスポーツにおける日本と海外の格差は、産業界にもそのまま当てはまるように思われる。
まずは人的資源管理(HRM:Human resource management)の側面が挙げられる。人材の流動性が確保されている欧米やアジアでは、優秀な人材がヘッドハンティングにより企業間を移動することで、先進的な考え方やベストプラクティスが普及し、産業界が底上げ・活性化されるメリットがあるとみられる。一方、日本では人材の流動性が低いことに加え、個別企業の内部でしか通用しない評価尺度を重視する結果、真の事業変革を起こしうる人材を異端視したり、あるいは十分な活躍の場を与えることができず、みすみす組織活性化のチャンスを逃していることはないだろうか。このようなHRMの巧拙の積み重ねが、従来の延長線上ではない抜本的な事業革新、すなわち「破壊的イノベーション」を創出できるか否かを決する重要なポイントになると思われる。
企業の設備投資行動もプロスポーツ界の動きと極めて似ている。我が国の製造業は、全体としては海外企業と比べ依然低収益にとどまっている。これは需要増に合わせた先行投資が十分に行われず、競争力のある最新鋭設備への更新が進まないことに起因すると考えられる。老朽設備の蓄積が供給過剰と生産性低下を招いてきた。根底には長期ビジョンを欠く、横並びで内向きの投資行動があると思われる。そこには海外企業との熾烈な国際競争に臨む上で、持つべき強い危機感が欠如しているのではないだろうか。
例えば、半導体産業では、米インテルや韓国サムスン電子など海外勢は、各々が明確な戦略ビジョンを持ってタイムリーかつ十分な先行投資を行ってきたが、日本勢は個性を欠く不十分な先行投資により好況期での収益向上機会を逸し、財務体質の改善が進展せず、投資余力が低下する悪循環に陥ってきた。最近ではエルピーダメモリや東芝が、海外勢に対抗して積極的な設備投資を行ってきており、「海外リーグ」での勝ち残りを期待したい。
老朽設備を廃棄しエネルギー効率の高い最新鋭設備に更新していくことは、温暖化ガス削減の抜本策の一つとなることも強調しておきたい(参考:
拙稿「地球温暖化防止に向けた我が国製造業のあり方」『ニッセイ基礎研所報』2008年Vol.50)。抜本的な産業再編成を通じて、環境性(エネルギー効率)と経済性(生産性)の両立を図る、真の国際競争力を有する最新鋭の製造拠点への更新・集約を進め、海外企業との競争に備えるべきだ。
今年はバンクーバーで冬季五輪、南アフリカでサッカーワールドカップが開催される。日本チームにエールを送るためにも、産業界は今年こそ国際競争に挑む上での強い危機感を醸成・共有し、横並びを排して切磋琢磨する、HRMや設備投資行動に踏み出すべきだ。