米国における生命保険ソルベンシー監督の動向-保険会社の資産運用規制モデル法の制定

1996年06月01日

(松岡 博司)

<要旨>

  1. 米国では、州により、保険会社に対する保守的な実体的監督が行われている。一方、一定規模以上の生損保会社は複数の州にまたがって、事業展開している。全米規模で保険監督規制の調整を行う機構として全米保険監督官協会(NAIC)が存在する。
  2. 80年代中旬から90年代初頭にかけ、巨大化した保検会社の経営破綻が発生した。州とNAICによる保険監督への信認が揺らぎ、連邦議会では連邦による監督を模索する動きも現れた。
  3. これを受け州およびNAICは、規制スタンスを80年代前半の規制緩和から支払能力(ソルベンシー)重視の再規制へ切り替えた。
    90年には、必要なソルベンシー監督規制の要件を装えた州をNAICが認定するという認定プログラムが発足、NAICが作成し州に提示する規制モデルが重要性を増した。
    とりわけ、93年決算から生保に適用された一種の自己資本比率規制であるRBC(リスクベースドキャピタル)比率規制は、大きなインパクトを与えた。
  4. 一方、一連のソルベンシー規制パッケージの1つとして4年にわたり検討されてきたNAICの「保険会社の投資に関するモデル法(モデル投資法)」が、この程、ほぼ完成し最終的な採択を待つ状態になっている。
  5. モデル投資法は、投資手続き、投資対象、投資対象毎の運用枠等を網羅的に規定している。
    また、デリパティブ、証券貸借等の新しい金融手法についても一定の規制の姿を示している。
  6. しかし、モデル投資法は、RBC比率規制の導入がもたらしたほどのインパクトは持ち得ないことと考えられる。
    モデル投資法は、認定プログラムの必須要件となることはなく、州の監督規制への反映は限定されたものになる事が予想される。
  7. モデル投資法の検討期間中に、米国の保険監督を巡る状況は様変わりした。米国経済の再生と業界の努力により、生保業界の財務健全性は回復した。94年11月の議会中間選挙で共和党が圧勝したことにより、州およびNAICによる保険監督に批判的な民主党が影響力を行使できなくなった。監督官や経営者の関心は、ソルベンシー問題から急速に離れつつある。
    当面の危機が去ったNAICは、認定制度の見直しと自らの役割の再規定を求められている。
    モデル投資法の検討過程はこうした状況変化を如実に反映することとなった。
  8. 保険、特に生保は長い期間にわたる保障を提供するものである。また、米国のように参入退出がたやすく保険会社の数が多い社会においては、全てを経営者の良識に任せておくことは困難であるともいえる。このため、保険に一定の事前的監督は不可欠であろう。しかし、規制は企業の行動を規定する要因のうちの小さな部分を占めるにすぎない。長期的には、市場の監視に委ねる部分を増やしつつ、規制は乱脈経営を防ぐという範囲に集中し、全体として整合性のとれた効果的な監督規制体系を構築していくことが期待される。
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