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インドネシア経済:25年1-3月期の成長率は前年同期比+4.87%~内需鈍化で2021年以来の低成長に

2025年05月07日

(斉藤 誠) アジア経済

インドネシアの2025年1-3月期の実質GDP成長率1は前年同期比(原系列)4.87%増(前期:同5.02%増)と低下し、市場予想2(4.92%)を下回った。

1-3月期の実質GDPを需要項目別に見ると、内需の鈍化が成長率低下に繋がった(図表1)。

民間消費は前年同期比4.89%増(前期:同4.98%増)と低下した。費目別に見ると、住宅設備(同5.38%増)が改善した一方、輸送・通信(同6.18%増)とホテル・レストラン(同6.06%増)、食料・飲料(同4.05%増)、保健・教育(同3.66%増)が鈍化した。

政府消費は前年同期比1.38%減となり、前期の同4.17%増から減少した。

総固定資本形成は前年同期比2.12%増(前期:同5.03%増)と低下した。自動車(同1.73%増)が改善した一方、機械・設備投資(同7.95%増)と建設投資(同1.35%増)がそれぞれ鈍化した。

純輸出は成長率寄与度が+0.83%ポイント(前期:▲0.20%ポイント)となり3四半期ぶりのプラスだった。財・サービス輸出は前年同期比6.78%増(前期:同7.63%増)と鈍化したものの、堅調な伸びが続いた。輸出の内訳を見ると、財輸出が同6.88%増、サービス輸出が同5.68%増だった。また財・サービス輸入は同3.96%増(前期:同10.19%増)と鈍化した。輸入の内訳を見ると、財輸入が同3.41%増、サービス輸入が同7.60%増だった。
供給項目別のGDPをみると、第二次産業が鈍化した(図表2)。

まず第二次産業は前年同期比2.84%増(前期:同4.89%増)と低下した。内訳を見ると、電気・ガス・水供給業(同5.11%増)が改善した一方、全体の2割を占める製造業(同4.55%増)と建設業(同2.18%増)が鈍化、鉱業(同1.23%減)が減少した。

第三次産業は前年同期比6.04%増(前期:同5.41%増)と上昇した。内訳を見ると、ビジネスサービス(同9.27%増)や運輸・倉庫(同9.01%増)、情報・通信(同7.72%増)、教育(同5.03%増)、行政・国防(同4.78%増)、金融・不動産(同3.56%増)が改善した。一方、構成割合の大きい卸売・小売(同5.17%増)やホテル・レストラン(同5.75%増)が鈍化した。

第一次産業は前年同期比10.52%増(前期:同0.71%増)と大きく上昇した。コメとトウモロコシの収穫量の増加が貢献した。
 
1 2025年5月5日、インドネシア統計局(BPS)が2025年1-3月期の国内総生産(GDP)を公表した。
2 Bloomberg調査

1-3月期GDPの評価と先行きのポイント

インドネシア経済は、2024年は選挙関連支出がGDPを押し上げる形となり通年の成長率(前年比+5.03%)が+5%を上回る堅調な景気が続いたが、今回発表された2025年1-3月期は前年同期比+4.87%となり、2021年7-9月期以来、最も低い成長率となった。

1~3月期は内需の鈍化が成長率低下に繋がった。まずGDPの半分以上を占める民間消費は前年同期比+4.89%(前期:同+4.98%)と低下した。1~3月期は消費が活発化する断食月(ラマダン)と断食明け大祭(レバラン)の時期が重なり国内旅行は同+12.71%と伸びたが、家計の購買力の低下により消費支出が伸び悩んだ。先行きの雇用への不安から家計の消費意欲が冷え込んだことも影響したと考えられる。

また政府消費(同▲1.38%)が減少した。この減少は昨年2月の総選挙と大統領選挙の実施に伴う選挙関連支出の高いベース効果によるものだ。また消費停滞で歳入が伸び悩み、政府支出の削減を余儀なくされたことも影響したとみられる。

投資(同+2.12%)は鈍化した。1~3月の直接投資実現額は同+15.9%と、昨年の大統領選挙と地方統一選挙後の政治的安定などから好調だったが、政府の予算効率化の取組みに伴う公共事業予算の削減や支出の遅れによって投資が鈍化した。

外需は輸入の鈍化により成長率寄与度が3四半期ぶりのプラスだった。財輸出(同+6.78%)は堅調な伸びを保ったがが、トランプ米政権による関税政策を警戒した前倒しの動きが輸出の押し上げ要因になったとみられる。貿易統計(通関ベース)をみると、1~3月期は動植物性油脂や電気機械、履物などの製造品の輸出が好調だった(図表3)。一方、サービス輸出(同+5.68%)は4年ぶりに成長率が一桁台にとどまった。1~3月期の外国人観光客数は同▲9.8%と減少しており、インバウンド需要に一服感がみられる。
インドネシア経済は内需の勢いが弱く減速感が見られる。成長率低下は予想の範囲内に収まったが、政府が目標とする今年の成長目標+5.2%の達成は難しくなった。プラボウォ大統領は、5年間の任期中に成長率を8%に引き上げると約束しているが、貿易戦争による世界経済成長の減速や財政緊縮といった逆風を受けており、成長見通しに影を落としている。

インドネシア政府はトランプ米政権との相互関税を巡る交渉について協議している。インドネシアに対する相殺関税は32%と、ベトナム(45%)やタイ(36%)などと比べて低く、またインドネシアの経済成長が内需中心であることからトランプ関税への対応力が相対的に高いといえるが、米国向け輸出の減少や、中国など他の貿易相手国の需要の落ち込みの影響は避けられない。また不確実性の高まりから金融市場が不安定化しており、為替市場がリスク要因となっている。インドネシア中銀は4月の金融政策決定会合では、アジア通貨危機以来の最低水準に近づく通貨ルピアの安定を維持するため政策金利を5.75%に据え置いた。3月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比+1.0%と低水準にあり、インドネシア中銀の物価目標(+1.5~3.5%)の下限を下回っている(図表4)。インドネシア中銀は通貨が安定すれば利下げに踏み切るだろうが、為替相場がトランプ米大統領に翻弄されるなかでは利下げの時期は不透明である。

経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠(さいとう まこと)

研究領域:経済

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴

【職歴】
 2008年 日本生命保険相互会社入社
 2012年 ニッセイ基礎研究所へ
 2014年 アジア新興国の経済調査を担当
 2018年8月より現職

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