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キャッシュレス社会の「信用リスク」-変わる「信用社会」の姿
2018年02月13日
(土堤内 昭雄)
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今から40年以上も前、クレジットカードがあまり普及していない頃に、老舗のレストランでカードを提示した時のことだ。店側から『当店では「掛売り」はしておりません』と慇懃無礼に断られたことがある。当時はクレジットカードとは名ばかりで、現金の支払いが「信用」の証だったのかもしれない。今ではクレジットカードを使えない店舗は、消費者側から信用力のない事業者だとみなされるだろう。プラスチックマネーと言われるクレジットカードは、現代生活の必需品になっているからだ。
やはり15年ほど前になるが、イギリスのNPO(非営利組織)で書籍を購入したことがある。受付で『Cash or card ?』と聞かれたのだ。日本でクレジットカードを使えるNPO法人があるのだろうかと正直驚いた。イギリスにおけるNPOは、政府や企業と並ぶひとつの事業体として社会的信用力が認知されていた証拠だろう。当時の日本社会はまだまだ現金主義で、小額決済にクレジットカードを使うこと自体がきわめて稀な時代だったように思う。
近年、日本もキャッシュレス化が進んでいるが、国際的にはキャッシュレス決済比率はとても低い。その背景には、銀行の店舗網やATM(現金自動預け払い機)が整備され、偽札も少なく現金の信用力が高いことがあろう。日本の個人消費におけるキャッシュレス決済はクレジットカードが中心だが、カード利用はある程度高額の決済に限られ、コンビニの日用品の購入などにはあまり使われていない。それが日本でキャッシュレス化が大きく進まないひとつの理由ではないだろうか。
キャッシュレス化には、クレジットカード、電子マネー、モバイル決済などさまざまな手段がある。日本でもようやく小額決済に交通系の電子マネーや銀行系のデビットカードの利用が広がってきた。電子決済の即時性を活かすためには、長い決済時間を要するクレジットカードではなく、電子マネーやスマホ決済が有効だ。電子決済にはネットワークの安全性や取り引きする双方の信用力が重要だが、即時決済システムでは「信用リスク」も低減され、取引コストが安くなるだろう。
中国のモバイル決済大手の「アリペイ」では、購買行動をはじめとした個人情報を基に「芝麻(ごま)信用」という個人の信用力の格付けを行っている。それは就職や結婚などの社会生活にも大きな影響力を持ち、個人の「信用リスク」がさまざまな社会的格差を生む。ビッグデータを使い個人の信用力を格付けするキャッシュレス化は、プライバシーのない「信用社会」に陥ることも危惧される。豊かな人間社会に必要なことは、現在の「信用」の土台の上に、未来に向けた確かな「信頼」を築くことではないだろうか。
(参考) 研究員の眼『
キャッシュレス社会の「光と影」~消費者を丸裸にする「ビッグデータ」
』(2018年2月6日)
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