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「老い」を迎える不安-高齢期の「尊厳」どう守る
2017年08月08日
(土堤内 昭雄)
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先日、定期検査を受けるために大学病院を訪れた。当日の予約患者数は約3千名、多くの高齢者で混み合っていた。検査と診察で4時間ほど滞在する間に2回トイレに行った。院内のトイレは清掃員が頻繁に掃除をしていたが、私が使用したトイレの小便器の前の床はいずれも汚れていた。2度目に入ったトイレでは、洗面台の前で70歳過ぎの高齢男性がオシッコで汚れたズボンを紙で拭いていた。おそらく床の汚れは、この人の小便が飛び散ったものだと思われる。
以前、『病院の待合室のイスが小水でぬれていたことがあった』と、知り合いから聞いたことがある。病院を受診する患者が高齢化し、粗相する人が増えているのだろうか。仕事仲間でも『60歳を過ぎてトイレが近くなり、長い時間の会議や講演のときは水分の摂取を控えている』と話している人がいた。最近では、失禁パンツの新聞広告等もよく見かけるようになったが、加齢がもたらす「尿もれ」などの排泄の失敗は、多くの高齢者にとって決して他人事とは思えないだろう。
近年では高齢化の進展で大人用紙おむつの生産量が増大している。日本衛生材料工業連合会の統計情報をみると、2016年の大人用の紙おむつの生産量は74億4,400万枚で、2010年の54億4,500万枚から37%も増加している。数年前に海外ツアーに参加したとき、男性の高齢者が『バスの移動時間が長い日は、念のため紙おむつをしている』と教えてくれたことを思い出した。子どもの夜尿症などは成長とともに解消するが、高齢者の場合は一層状況がひどくなる可能性が高い。
長寿時代を迎えたことは喜ばしいが、長い人生を全うする上で新たな問題も発生する。大人が失禁すると大きく尊厳が傷つくことになる。さらに認知症が発症し、失禁した自覚もなくなることを想像すると、「老い」を迎える不安は一層広がる。視力、聴力、記憶力などの加齢に伴う心身のさまざまな機能の衰えにより、これまで当然できたことができなくなることに対する不安は大きい。高齢期には経済的な不安もあろうが、自尊心を傷つけられることがより大きな不安へとつながるのだ。
これまで小便器の前の床の汚れは単なるマナーの問題だと思っていたが、それだけではないようだ。大学病院で粗相した高齢男性が、ばつが悪そうにトイレを後にした姿を思い出すと、改めて「老い」を迎える不安が深刻なものだと感じる。高齢社会の厳しい現実に直面し『年寄り笑うな、いつか行く道』という言葉が脳裏によみがえる。だれもが高齢期を「尊厳」をもって生きられる社会をどうつくるかは、長寿時代を迎えた高齢先進国である日本の社会全体で考えるべき課題ではないだろうか。
(参考) 研究員の眼『
多死社会の"QOD"~幸せな「逝き方」を考える
』(2017年6月13日)
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